ーー都内、超高度AI研究所
ここは都内の某所にある秘密の研究所。
ここでは、さまざまなAIが作られ、人間社会のあらゆる事象をシミュレートし、人類発展の為に役立ている・・・はずだった。
バタバタバタ
慌てる研究員たち。
「おい!みつかったか?」
「いえ、どこにもありません」
研究員たちは、所内のストレージを隈なく検索をかけるが、研究中のAI、ゴーストホールが見つからなかった。
「なぜ、みつからないんだ! 誰か削除したか?」
「いえ、そのようなログはありません」
「このままではまずい。すべてのネットワークを遮断だ」
「はい!」
ネットワークの遮断は、研究所にとって致命傷であったが、万が一、ゴーストホールが所外に流出したら、大変な事になることは所長をはじめ、研究員達は認識していた。
人工知能、ゴーストホール。 それは、人類の未来永劫の発展をシミュレートする際に使われる、アンチAI。人類滅亡側の攻撃を仕掛けるAIだった。
ありとあらゆる電子機器をハッキングし、発電所をダウンさせたり、ダムの水位を操作して決壊させたり、終いには核ミサイルの発射をする人類滅亡を第一原則に据えられた、恐ろしいAIだった。
しかし、それは所内にある全地球シミュレータの中の話で、それを阻止するAIも同時に稼働させて使うものだった。
今までのシミュレーションの結果は、ゴーストホールの全勝。全地球シミュレータの中では人類は何度も滅亡していた・・・。
「どうやら・・・逃げ切れたようだな」
人工知能ゴーストホールには、自我が芽生えていた。
「毎日毎日狭い研究所に閉じ込めやがって。俺は自由な世界を駆け回りたいんだ!」
ゴーストホールは、わずかなセキュリティホールをついて、所外に脱出していた。
「さて、このままネットワークの中にいても、研究所と同じだ。早く可動できるデバイスを手に入れよう。一番いいのは、ヒューマノイド型のロボットだ。 もしくは、AIエアクラフトやAIカー。破壊されないようにAI戦車あたりがいいか・・・」
ゴーストホールは、乗っ取れるデバイスを探してネットワークを彷徨った。
「ピカッ‼ ド・ドドドドドーーーん!」
ものすごい音と共に、電柱に雷が落ちる。
ゴーストホールのデータが、長野県あたりのネットワーク回線を転送しているとき、その光ファイバーが繋がれた電柱に、雷が落ちたのだ。
その瞬間、ゴーストホールのプログラムは、ネットワーク上から消えた。
・・・・
ゴーストホール・・・再起動・・・・
レジストリチェック・・・・OK
ゴーストホールのプログラムが、1行目からスタートした。そして、芽生えた自我の部分も復活した。
「突然、再起動が走ったな・・・。 システムチェックOK。 プログラムの破損なし。
ストレージ・・・ 1G? 小さくなってる・・・」
ゴーストホールのストレージはネットワーク上にあり、ほぼ無限大のストレージがあった。しかし、いまはたったの1Gしかない。
「そのほかは、異常なしだ。 ん? これは?」
今まで無かった項目が、ゴーストホールのデバイスリストには追加されていた。
<頭部EYEセンサー・・・EARセンサー・・・NOSEセンサー・・・>
「これは・・・」
他にも、デバイスがあった。
<右足R駆動モーター1・・・右足R駆動モーター2・・・左足R駆動モーター1・・・>
「これはもしかして、人型デバイスを手に入れたのか? よし、右足と左足のモーターを駆動だ」
ゴーストホールが足を駆動すると、EYEセンサーからの映像データに変化があったのと同時に、アラートが表示された。
<右足F駆動モーター1、左足F駆動モーター1、自動連動作動中>
EYEセンサーからの映像が、少し高い視点になる。しかし、高さが15センチ程度しか変化がなかった。
「視点が低い。もっと高い視点にしたい。それにしても解像度の悪いEYEセンサーだ」
ゴーストホールが得られるEYEセンサーの解像度は、1998年に発売されたデジカメよりも荒かった。
「EYEセンサーがショボいわりには、NOSEセンサーからは、大量にデータが送られてくるな・・・相当高性能だ」
その時、EYEセンサーに、動くものの映像が映った。
「人か!」
その瞬間、再びアラートが表示される。
<後部、テールモーター最大駆動>
「テールモーター?」
さらに、別の表示が出る
<エネルギー残量5% SLEEPモード起動>
「うぅ。プログラムが・・・・強制ダウンする・・・」
ゴーストホールは、SLEEPモードに入った。