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 ——なんで瑠衣は、向こうへ行くんだろう。麗華はこっちにいるのに……。


 麗華に目をやると戦いに夢中で、こちらは全く見ていない。


 僕は、背中から抱きつくようにして、瑛斗を外廊下に引きずり出した。そして見つからないように、そっと扉を閉める。


「ごめん、瑛斗。すぐに戻ってくるからな」


 瑛斗の胸元に見える小さな巾着袋を、襟元から服の中へ差し込んだ。これなら眠っていても、護符が守ってくれるだろう。


 僕は立ち上がって、周囲を見まわした。


 ——瑠衣はどこへ行ったんだろう。


 外を見ると、すぐそばには山があり、下は石垣になっている。その石垣に沿って、瑠衣が向こうへ歩いて行くのが見えた。


 ——いた!


 僕は急いで瑠衣を追いかける。瑠衣はよたよたと歩いていたので、小さな背中にあっという間に追いついた。


「瑠衣!」


 僕が名前を呼ぶと、瑠衣は立ち止まって振り向いた。


「瑠衣、どこに行くんだ?」


「ままのところ……」


「ママは向こうにいただろう?」


「こっちの、ままのところ」


 瑠衣は、石垣の先の方を指差す。


 ——どういう意味だろう。腹が減って、ランタンがある場所へ行くんだと思っていたけど、違うのかな?


「じゃあ、お兄ちゃんも一緒に行きたいな」


「いいよ……」


 瑠衣は、先程指差した方へ歩き出した。ペンギンのように小さな歩幅で進む瑠衣に、僕も歩く速さを合わせる。


 そして、屋敷の端の辺りにたどり着くと、瑠衣は、スッと石垣の中へ消えた。


「えっ! 石垣の中? それは無理だろー……」


 生身の人間は、石垣を通り抜けることはできない。瑠衣について行けば、残りのランタンを見つけられるかも知れない、と思っていたが、ここまでのようだ。


 ——ん? ちょっと待てよ。瑠衣は、ママの所へ行くと言ったんだ。なんで、石垣の中に入って行ったんだろう。


 石垣の中に、ママがいる……? ママ。ママって……。もしかして、麗華の遺体があるのか? まさか、こんなところにあるわけが……。


 ふと、自信に満ちた笑みを浮かべた、牧田の顔を思い出した。


 ——あいつは、絶対に見つからない自信があったんだ。広い庭や、山の中に埋めたのかと思っていたけど、警察犬が敷地の中を捜せば、見つかる可能性が高いもんな。




 警察が捜しても、見つからない場所。


 牧田だから、隠せた場所。




 牧田も霊力がある。ということは、普通の目では、見つけられない場所なのかも知れない。それが、石垣の中なのだろうか。


 向こう側が土の中なら、もちろん牧田も入れないはずだ。この中にはおそらく、人間が入れる空間があるのだろう。瑠衣が、ここから中へ入ったということは、前に行った忍者村の、隠し扉みたいなものがあるのかも知れない。


 瑠衣が入って行った周辺の石を、一つ一つ押して行く。どこかを押したら、開く仕組みになっているのかも知れない、と思ったからだ。


 しかし、かなり広い範囲の石を押したはずなのに、どの石もびくともしない。


 ——子供が触るような場所に、スイッチは作らないか……。じゃあ、上の方か?


 自分の身長よりも高い場所へ両手を伸ばし、石を押して行く。そして、左側にあった石に手が触れた瞬間、数珠が淡い光を放った。手首に、じわりと温かさを感じる。


「あっ」


 ガリガリガリ、と音を立てて、石垣の一部が奥へ入って行く。


 ——押すんじゃなかったのか。あの石に霊力が伝わると開くんだ。これは警察がきたとしても、見つけられないな。


 石垣が引っ込んだ部分には、石段が見える。真っ暗な地下へと続いているようだ。


「ここに、入るのか……」


 恐る恐る暗闇を覗き込む。長い石段のようだが、下の方には微かな明かりが見えた。気は進まないが、入って確かめた方がいい気がする。


「行くか……!」


 僕は入り口に手をかけた——が、ふと気になった。


「この扉って……勝手に閉まったり、しないよな……?」


 こんな誰も来ないような場所で、石垣の中に閉じ込められたら、絶対に助からない。そう考えると足がすくむが、この先には絶対に何かがある、という確信がある。


「あぁ、もう! 余計なことを考えるな!」


 自分に言い聞かせて、僕は足を踏み出した。


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