不動産会社の中へ入り、真っ直ぐに受付へ向かう。
「営業の牧田さんをお願いします」
僕が言うと、受付の女性は奥の部屋に、牧田を呼びに行った。今日も店舗の中は、大勢の客で
——話をするなら、外へ出た方がいいな。
僕が店舗の中を見まわした後に御澄宮司を見ると、視線がぶつかった。おそらく御澄宮司も、同じことを考えているのだろう。
「あぁ。いらっしゃいませ」
受付の奥から、シルバーのメガネをかけ、グレーのスーツに身を包んだ男が歩いてくる。僕が何のために来たのか分かっているくせに、相変わらずの営業スマイルで対応する牧田に、憤りを感じた。
「僕を覚えていますか?」
「えぇ、もちろん。瀬名さんのご友人ですよね」
「そうです。今日は部屋のことではなく、あなたに用があって来ました」
「私にですか。どういったご用件で」
牧田は全く動揺していないように見える。それは牧田と麗華がやっていることが、霊感がある人間でないと、気付けないことだからなのだと思う。僕も、おじいさんから話を聞けなかったら気付けなかったはずだ。だから牧田も、簡単にはバレない、と高を括っているのだろう。
「——訊かないんですね。瀬名のことを。僕が、一度しか会ったことがないあなたに用があると言っているのに、なぜ瀬名が一緒ではないのか。そこは、気にならないんですか?」
「……今日は、別の方とお越しになっていますからね。いくら友人でも、いつも一緒にいるわけではないでしょう?」
やはり牧田は顔色を変えない。
「あなたは知っているからじゃないですか? 今、瑛斗がどんな状況になっているのかを」
「私はあれ以来、瀬名さんとはお会いしていませんから。どうかされたんですか?」
——今日もこうやって、のらりくらりと誤魔化すつもりなんだろうな。でも、そうはさせないぞ。絶対に、瑛斗を助けるんだ……!
僕は瞬きをせずに、牧田の顔をじっと見つめた。
「瑛斗は今、麗華という
牧田の左目の下が、ぴくりと動いた。
——そうだよな、妹を悪霊だなんて言われたら、腹が立つよな。やっぱり麗華は、こいつの妹だ。
僕は幼い頃から、霊感があることを周囲に隠して来たので、人の顔色を
僕は御澄宮司にちらりと目をやった。御澄宮司は一度頷いて、牧田に視線を向ける。
「私は、霊媒師の御澄と申します。瀬名さんの家にいる恐ろしい
前回はあれほど
「ここで話をするのは都合が悪いでしょうから、外で話しましょうか。驅世さん?」
御澄宮司は、満面の笑みを浮かべて言う。
やっぱり僕は、この人が神職に就いているとは思えない。
僕たちが大体のことを把握している、ということを察したのか、牧田は貼り付けたような笑顔をやめた。
「お先にどうぞ」
御澄宮司が言うと、牧田は何も言わずにゆっくりと、店舗の出入り口へ向かって歩いて行く。
——やっと話す気になったのか。
僕と御澄宮司は視線を合わせてから、牧田の後を追った。