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 数日後、御澄みすみ宮司から連絡が来た。


 呪詛を専門としていた家が使っていた呪法が、分かったそうだ。御澄宮司は、一番霊が視えやすい夜になってから、麗華れいかを祓うと言う。


 御澄宮司に指定された日の夕方。瑛斗えいとの奥さんと娘には、実家に泊まってもらい、僕と瑛斗はマンションの外で、御澄宮司を待つ。


「なぁ、蒼汰そうた


「ん? 何」


「これで本当に、終わるのかな」


「……分からないけど、もう、御澄宮司に任せるしかないよ。僕たちじゃどうにもならないことだし。瑛斗だって、早く元の生活に戻りたいだろ?」


「うん。そうだな……」


 僕たちが話をしていると、一台の車がマンションの駐車場に入ってきた。真っ白な高級車は、外車のようだ。


「見たことがない車だ。あれが御澄宮司なんじゃないの?」


 瑛斗がそう言うので見ていると、平安時代の貴族が着ていそうな狩衣かりぎぬを着た男性が、車から降りてきた。やはり御澄宮司だ。背が高く、整った顔立ちをしている御澄宮司は、紺色の狩衣もよく似合う。


「お待たせいたしました」


 御澄宮司は、爽やかな笑顔を僕たちへ向ける。


「では早速ですが、部屋へ案内していただけますか? この格好は、目立ちますので」


「そう……ですね」


 偶然通りかかった子連れの主婦が、何度も振り返って、御澄宮司を見る。もしかすると、男前だと思って見ているのかも知れないけれど、住宅街に、平安時代の貴族のような衣装を着ている人がいれば、それは驚くだろう。


 今から何か、儀式めいたことをするために必要なのかも知れないが、どうしても、あの衣装でなければいけないのだろうか——。


 三階へ移動した僕たちは、室内へ入る。何度入っても慣れない、嫌な圧迫感だ。マンションの入口から始まった頭痛は酷くなり、気分が悪くなってくる。


「うっ」という小さな声が聞こえて、振り返ると、御澄宮司が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「一ノ瀬さんは、平気なんですか? この空気……」


「いえ、平気ではありませんけど……。何度か入っているので、我慢できているだけです」


「そうですか。意外と、強いですね……」


 そんなやりとりを、瑛斗はきょとん、とした顔で見ている。


「どうしたんだ?」


「別に……なんでもないよ」


 無理に笑顔を作って答えると、瑛斗は「それなら、いいけど」と、部屋の奥へ入って行った。


 こういう時は、やはり霊感なんてない方がいいな、と思う。霊が巣くっている部屋の中は、霊気が強すぎて、眩暈めまいがする。御澄宮司は、僕なんかよりも遥に強い力を持っているので、つらいはずだ。


 御澄宮司は顔をしかめたまま、各部屋を見てまわる。どこが祓うのに適した場所なのかを、探しているようだ。


「ここですね」


 そう言って入って行った部屋は、この間、瑛斗が閉じこもっていた、物置部屋だった。


 ——そういえば、この部屋って……。


 麗華の記憶がよみがえってきた。あの時、最後に向かった部屋は、この物置部屋になっている部屋だ。


 ランタンが隠されている鏡台があったのは、部屋に入って右奥の、壁際だった。


「そこです」


 僕が鏡台があった場所を指差すと、御澄宮司は驚いたように、目を大きくした。


「……呪術が使われたのは、この場所ですか?」


「はい。そこで麗華は、自分を刺しました」


 鏡台の椅子に座ったままで、麗華は短剣の先を自分へ向けたのだ。


「では、ここにしましょう。少しでも物の怪と関係がある場所の方が良いので」


 御澄宮司は、持っていた革製の黒いバッグを床に下ろした。


「……本当は、一般の方に話すようなことではないのですが……。あれから私も伝手を使って、色々と調べたんです。でも、調べれば調べるほど、理解できないことがあって……」


 御澄宮司は、僕の目をじっと見つめる。


 ——もしかすると、聞かない方がいいのかも知れない。


 なんとなく、そう思った。もう充分、足を突っ込んでしまっているが、聞いてしまうと、二度と後戻りができないような気がした。

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