巫女装束の女性に案内され、
壁は真っ白で、柱は全て鮮やかな朱色だ。回廊からせり出した軒先には、所々に金色の飾りが吊り下げられている。手の込んだ細工が施されている金色の飾りは、風が吹くと揺れて、陽の光をきらきらと反射させた。
あまりにも華やかで幻想的な美しさに、目が
「はぁ〜……」
気の抜けた声がした方へ目をやると、瑛斗は
まぁ、その気持ちは分からなくもない。巫女装束の女性がスタスタと前を歩いて行くので、僕たちもついて行かなければならないが、本当はもう少し、この幻想的な光景を見ていたい。
朱塗りの廻廊は、見た目も美しいが、まるで秋の早朝のように空気が澄んでいる。身体の中の悪いものを全て、浄化してくれているようだ。
「こちらです」
女性に言われて立ち止まると
中には、真っ白な装束に身を包んだ男性が立っている。
「どうぞ、お入りください」
宮司に言われ、僕と瑛斗は視線を合わせて頷いた。
拝殿の中に入り、用意されていた椅子に並んで座る。
「ようこそおいでくださいました。宮司の
御澄宮司が微笑む。思っていたよりも若い。歳は三十代くらいだろうか。少し色素の薄い髪で、整った顔立ちをしている。
「一ノ瀬蒼汰です」
「瀬名瑛斗です」
僕たちが頭を下げると、御澄宮司も会釈を返す。
「大体のことは、信子さんから聞いたのですが——」
御澄宮司が言いかけると、瑛斗が不思議そうな顔をして僕を見た。
「あぁ。僕の会社の社長だよ。神原信子っていうんだ。神原社長が、御澄宮司を紹介してくれたんだよ」
瑛斗は、あぁ、と言いながら頷いた。
「失礼。いつも信子さんとお呼びするもので」
「いえ。遠い親戚だと聞いています。信子さんで大丈夫です」
僕が微笑むと御澄宮司は、バツが悪そうに、眉を下げて笑った。大きな神社の宮司と聞いた時は、とっつきにくい人なのだろうかと思ったが、そうではないのかも知れない。
「では初めに、私が書いた護符を、見せていただけますか?」
「はい。瑛斗、首にかけてある護符を渡して」
「あ、うん」
瑛斗は、首にかけてある巾着袋の中から護符を取り出し、御澄宮司に手渡す。
「あぁ……。やはり、これでは力不足でしたね」
御澄宮司は眉をひそめた。
「どういうことですか? 護符はちゃんと効きました。僕が使ったんですけど、護符を霊に押し付けたら、遠ざけることができましたから」
「それがおかしいんですよ……。この護符は、普通の死霊が直接触れると、一瞬で消え去ってしまうはずなんです」
「えっ……?」
——こんな紙切れが本当に効くのか、とか思ってしまったけど、そんなに強力なものだったのか……。
「消せなかったんですよね?」
「は、はい……。霧みたいに散っていっただけだと思います。でも、どうして消せなかったって、分かったんですか?」
御澄宮司は僕の目の前に、護符を差し出した。
「これを、見てください」
護符を覗き込むと、真ん中に、小さく亀裂が入っている。
「いつの間に……」
「おそらく、一ノ瀬さんがこの護符を使った時に、力を跳ね返されたんです。話に聞いていた通り、その死霊は、とても強い力を持っているようで。——なんだか、死霊というよりは、物の怪と言った方が良さそうな気がしますね」
御澄宮司は護符を見つめながら、う〜ん、と唸る。
「まぁ、護符は後で、もう少し強力なものをお渡しするとして……。今日は、瀬名さんがどんな状態なのかを、見せていただこうと思ったのですが、私が今心配なのは、瀬名さんではなく——。一ノ瀬さんです」
「えっ……? 僕、ですか?」