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 僕は日曜日の朝っぱらから、人混みの中を歩かされている——。


 昨日、僕と瑛斗えいとが二人で出かけていたのを知った慎也しんやが、なぜ自分も呼ばなかった、とねたのだ。


 そして今日は朝早くから、慎也の買い物に付き合わされることになった。日曜日の朝くらい、ゆっくり寝かせて欲しい。


 それに、あまりにもしつこいので仕方なくついてきたが、瑛斗と慎也は顔見知り程度なのに、なぜ慎也を呼ばないといけないのだろうか。こうして人混みの中を歩いている今も、まだ納得ができていない。


「おい、蒼汰! 早く歩けよ。買い物が終わったら、カラオケに行くんだから」


「えぇー。買い物って言ったじゃないか。日曜日なんだから、帰ってゴロゴロしようよ」


「何言ってんだ! 昨日は、瑛斗と一日中遊んでたんだろうが! 今日は、俺に付き合う日なんだよ」


「いやぁー、そうじゃないって。瑛斗の実家に行っただけだって……」


 僕は幼馴染の慎也にも、霊感があることは言っていない。それを隠しながら、昨日のことを説明するのは、難しい。


「ほら、行くぞ!」


 慎也に腕を引かれ、コーヒーショップに並んでいる人達の間を抜ける。


「慎也、待てって。ぶつかるから——」


 ふと、視線を正面に向けた瞬間。若手俳優のように整った顔をした男が、目に入った。すらりと背が高い、その爽やかな男を、道行く女性たちは次々と振り返る。


「あ……。瑛斗だ」


 道路の反対側にいる瑛斗の隣には、女性と子供の姿がある。


 ——最近は、あまり奥さんと話をしていないって言っていたけど、今日は一緒なのか。


 すると、慎也がガバッと肩を組んできて、僕と同じ方向へ目を向けた。


「へー、あれが瑛斗の奥さんか。イケメンの奥さんは、やっぱり美人なんだな」


 横顔しか見えないが、たしかに美人のようだ。鼻筋が高くて、目が大きい。長い黒髪で、細身のモデル体型だ。


 子供は奥さんが抱いている。ショートカットなのは分かるが、顔は見えない。


「くそー、いいなぁ。美人な奥さん、俺も欲しいな〜」


「瑛斗はイケメンだし、優しいからな。でも慎也はちょっと、無理だと思うよ」


「……蒼汰そうたってさ、瑛斗には優しいのに、何で俺にはそんなに冷たいんだ? 大事な幼馴染だろ、俺は」


 慎也は顔をしかめた。


 ——なんか、彼女にかれているみたいだな。しかも、顔が近い。


「幼馴染だから大事とは、限らないだろ」


 面倒になったので冷たく言い放つと、慎也は子供のように顔をくしゃくしゃにして、拗ねた態度を取る。


「もー。いいから離せよ、暑苦しいな」


 僕は、肩にかけられた慎也の腕を振り払った。


 慎也は余計に、顔にしわを寄せるが、知ったことではない。それに慎也は不機嫌になっても、どうせすぐに忘れて元に戻る。長い付き合いなので、彼の性格は分かっているつもりだ。


 案の定、慎也の興味はすぐに、僕から瑛斗へ移る。


「なぁ、ちょっと行ってみる?」


 慎也が瑛斗の方を見ながら、目を輝かせる。新しいおもちゃを見つけた、子供のような目だ。


「……お前、からかいに行きたいだけだろ? せっかく家族で楽しんでいるんだから、邪魔をするなよ。行くぞ」


「えぇ〜」


ごねる慎也を引っ張って、瑛斗とは反対の方向へ歩く。慎也が大声で瑛斗を呼んだりする前に、早くこの場を離れたい。


 昨日は、瑛斗も憂鬱ゆううつそうな顔をしていたが、今日は奥さんも休みを取ったのだろう。一緒に出かけて気分転換をして、早く引越しの話を進めて欲しい。これ以上、あの家にいるのはよくないと思う。


 歩きながら振り返ると、奥さんが瑛斗に寄り添い、笑顔で話しかけている。遠目で見てもやはり、美男美女でお似合いの夫婦だ。


 ——なんだ、仲良いじゃないか。


 もしかすると、奥さんが仕事で忙しくて構ってくれなかったから、瑛斗が拗ねていただけなのかも知れない。仲直りができたのなら、一安心だ。


 僕は幸せそうな家族を見ながら、安堵あんどの吐息をついた——。


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