机の上にある携帯電話が、ブブッと音を立てた。
——誰だろう……?
ベッドに寝転がっていた僕が
『
三年間クラスが一緒だったので仲良くしていたが、大学は別々になったので段々と
僕は飛びつくように通話を押した。
「もしもし、元気?」
『——おう。久しぶりだな、
久しぶりに聞く瑛斗の声は、少し低くなったように感じる。
「本当にな。全然連絡してくれないから、どうしてるかなと思ってたよ」
『まぁ、子供が生まれてからは、忙しかったしな』
瑛斗は大学に入ってすぐの頃に、彼女が妊娠していることが分かり、大学を中退していた。生まれてくる子供と妻を
「そうだよな。会社の先輩たちも、小さい子供がいると大変だ、ってよく言ってるよ。でも、可愛いんだろ?」
『そりゃあ可愛いよ。じゃなきゃ子育てなんて、やってられないよ。全然言うことを聞かないし、突然泣き出すし、最近は口答えもするようになったよ』
「はは、そうなんだ。今、何歳になったんだっけ?」
『もうすぐ四歳だよ。俺たちが二十歳になる年に生まれたからな』
「あぁ、そうだったな。今年二十四になるってことは、子供は四歳か」
『そういうこと』
「よその子が育つのは早いってよく聞くけど、本当だな。そんなに大きくなっているとは思わなかったよ。瑛斗が結婚してからも、もう四年も経っているってことだもんな。全然、実感がないよ」
『俺もないよ。本当にあっという間だったからな。自分でも、もうそんなに経ったのかって思うよ。今じゃ完全に子供中心の生活になっているから、友達と遊びに行くことは、なくなったんだよな……』
瑛斗が、深くため息をついたのが聞こえた。
「何、遊びたいの?」
『んー……。たまには息抜きくらいしたいな、とは思うけど。仕事以外は、家族としか会わないような生活をしているからな。それに、久しぶりに、蒼汰に会いたいし』
その時——。
きゃー、ははは! と無邪気な笑い声が響いた。
電話の向こう側からは、幼い子供の声が聞こえる。何を言っているのかは分からないが、
たしかに、いくら可愛くても毎日これをやられては、ため息をつきたくもなるかも知れない。
「元気な子供だな」
僕は思わず、フッと笑ってしまった。
『——あぁ、聞こえる?』
「うん、ずっと聞こえてる。何を言っているかは分からないけど」
『そうだろ。親でさえ何を言っているか、分からないんだから。まぁ、病気をしたりするよりはいいけどな』
「そうだな」
きゃはははは!
話をしている間も時折、子供の
——これが、親というものなのか。
急に同級生の友人が、自分よりも随分と大人に思えた。社会人二年目になっても、まだ学生気分が抜けない僕とは、大違いだ。
「そうだ。
『そうだな。
「うん。楽しみにしているから、ちゃんと説得してくれよ?」
『分かったよ。じゃあな』
僕は仕事柄、相手が電話を切るまで待つ、という癖がついている。
携帯電話の向こう側からは、相変わらず、子供の笑い声が聞こえた。
——本当に、元気な子供だな。
そう思った時、ひび割れるようなノイズ音が聞こえ、電話は切れた——。