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第四十三話 打開策

目が覚めると知らない背中があった


天井はなかった


多分、誰かにおぶわれているのだろう

走っているのかすごく揺れるので乗り心地は悪い


「あ、そうだった」

そこで、さっきまで何があったのかを思い出した。

「すまない、おろしてくれ」

「おぉ、目が覚めたか」


そう言って、俺をおぶっていたルイスが前を向いたまま答えると辺りを警戒しながらそっと俺をおろしてくれた



「俺はどのくらい寝てた」


ヘレナとベル君も後ろから走って追いつきてきた

「体感5分くらいってとこかな。大丈夫、そんなに寝ちゃいないよ」

「どこか大怪我したのかと思って心配したよ」


俺たちが走ってきた方からは銃声や怒号は止んでいて、かすかに聞こえる馬のいななきと男たちの笑い声が聞こえた


「これは、敵前逃亡に入るのかな」

「間違いなく敵前逃亡だろ。こんなのバレたら軍法会議ものだ」


軍法会議はごめんだが、誰もみてないなら問題ない。


「ルーク、大丈夫かい?随分と顔色が悪く見えるけど」

ヘレナはそう言うとポケットからハンカチを取り出して俺の額を拭いてくれた

同じ支給品のはずなのに少しいい匂いがしたような気がしたのは秘密だ

だが、おかげで少し落ち着いた。腕の震えは治らないが肩の力は少し抜けたように思う


「ごめん、ルーク君。僕がぼーっとしてたから」

「いや、ベル君は悪くないよ。戦場なんだ、これが普通だよ」


お互いに謝罪のやりとりをしているとヘレナとルイスがニヤニヤとしながらこちらをみていた


「なんだよ」

「いやねぇ?震えてなきゃ、かっこいいんだがなぁ」

「うるさい」

「2人ともお熱いことだね」


そう言われると今度はベル君の顔が真っ赤になる


そんなやりとりをしている内に頭も少し冴えてきて次の行動を考える余裕ができてきた。


「運んでもらってありがとなルイス」

「いいってことよ。気にすんな」

「それで、気を失ってたからわからなかったんだが。行軍中の後衛は全滅と見るべきか?」


すると、ルイスは渋い顔をして顎に手をあて唸り始めた

「ふーむ、正確なことはわからないが、俺たちが離脱する時には半数は倒れていたな」


そうだとすれば銃声のやんだ今、中隊は壊滅したと見るべきか

「一度、様子を見に戻らない?」

正直、戻りたくはないがヘレナの言う通り、様子を見に戻らないことにはどうにもならない


「そうだな、よし。遠目から見れる距離まで戻ろう、縦隊で向かう。ルイスは最後尾で周囲の警戒をしながらついてきてくれ」


「「「了解」」」

全員で頷きあうと一列になってライフルを構えて先ほど逃げてきた道にもどる


皆、周囲を警戒しながら腰を屈めて歩いているとヘレナが真後ろにやってきた

「んで、大丈夫?無理してない?」

「まだ、整理はついてないけど。今は一旦忘れてやれることをするよ。今はあそこが俺のいるべき場所だからな」


そうなのだ、フランツが軍にいて欲しいといったのだ。師団の招待は断ったが俺が志願兵としていることに意味があるのだろう。そうなれば居続けないといけない。


「そうかい、ならいい。複雑なことは当座の難を凌いでからでいいよね。でも、本当に辛くなったらいいなね?アタシ、これでもアンタよりはお姉さんなんだからね」


そう言いながら彼女はウィンクして持ち場に戻った。

これでも俺の中身はおっさん差し掛かった男なんだがなぁ

そんなに憔悴しているように見えただろうか。シャンとしないとな




「とまれ」

目の前から突然、静止の声が飛んだ。

俺たちが慌てて声のした方に銃口をむけ照準を覗く

緊張の糸が張りつめ額を一筋の汗がつと流れる




その静寂を破るように聞き覚えのある声が響く

「あー、たんまたんま!この人見たことあるっす」


ん?この声どこかで……?

「あ、貴様ぁ!あの時の!」


茂みから出てきたのは例の衛兵ことドグとヤウンだった


これは、面倒な人間が増えたことを嘆くべきか。それとも、仲間が増えたことを喜ぶべきか否か悩ましいところだ。

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