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間話 憔悴

サラはあっという間に戦地へと旅立ってしまった息子と最近忙しくしていて帰ってくる頻度の減ってしまった旦那がいない家でボーっとココアを飲んでいた


「はぁ……」


今日何度目かも知れない、ため息をはいていると侍女のマリーが洗い物をしていた手を止めてこちらに振り返っていた。


「どうかされましたか、奥様」


「いいえ、なんでもないの」

「何かご不満があればなんでもおっしゃってください」


そう言って彼女は軽く腰を曲げて綺麗な斜め45°のお辞儀をして見せた


「いえ、あなたの働きぶりに文句なんてないわよ。あんなに一生懸命働いてくれてるのに不満なんてあるはずないわ」


「では、何か……。」


「漠然とした不安が消えないのよ」

「不安、ですか」


マリーは不思議そうな顔を浮かべた後少し笑顔を浮かべて、サラの持つ空になったカップにココアを注いでサラの横に座り洗濯物を畳み始めた。


「是非とも聞かせてください」


「すごく不安なの。フランツとルークの向かっていく先が……」


そう、時折不安になるのだ

フランツはあの子を愛してなんていないんじゃないかって


「向かっていく先ですか。でも、旦那様も坊ちゃんもしっかりとしたお方で時制などに流されたりなど……」


マリーがそう言いかけた時、サラはカップを置き気持ちが爆発するのを抑えるかの様に顔に手を当て上擦った声で否定する


「違うの!違うのよ!あの人は本当にあの子のこと…。ルークのことを愛しているの?あの人は全部犠牲にしてでも使命を果たすつもりなんじゃないのかしら」


しかし、マリーは動揺する様を見せる様子もなく毅然とした様でサラの目を見つめた。


「そんなことはあり得ません。旦那様は坊ちゃんを愛しく思っておいでです」



「じゃあ何で戦争なんて」


「それは、大義の……」

その言葉を聞いた途端、サラは虫唾が走る思いがした


「あなたもあの人と同じことを口にするのね!大義って何なのよみんなで幸せに暮らせればいいじゃない!みんなして大義大義、使命使命って……!あの子はまだ10歳なのよ!」


マリーがその剣幕に面食らっている間にサラは続ける


「本当なら、あの子はまだ家の周りで遊んでいる様な歳なのよ。現に近所の子達は何も知らずに無邪気に遊んでいるじゃないの。それをどうして戦争なんて……!」


そう言い切るとサラは抱え込んでいた感情を吐き出し切ったのか机の上に突っ伏して小さな嗚咽を漏らし始めた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんなサラを見てマリーは困惑すると同時に彼女が泣くことができる人なのだと思い少し安心した心地になった


思えば奥様が旦那様に嫁いできて以来、妊娠中も出産時も泣き言一つ言わず気丈に振る舞ってきた彼女がここまで憔悴しきって狼狽しているのを初めて目にしたのだ。


坊ちゃんが戦地に赴く時も泣き顔は見せず笑顔で送り出し、旦那様が帰ってくることが減った最近も笑顔を絶やした事はなかった。


そんな彼女が自分に弱音を吐いてくれたことが嬉しかった。

自分とサラの関係は主従以上のものではなく、優しい主人ではあるがそこに友人としての情や旦那様のような家族の仲の様なものもなかった。


ただ、良き主人と忠実な侍女であった。

そんな私に不安を打ち明け、相談してくれたことが嬉しかった


そうなればコチラもきちんと相談に乗らねば失礼というものだろう

そう思いマリーはさらに向き合うと微笑んだ


「なんでもお話しください。微力ながらきっとお力になれると思います」


すると、サラは突っ伏していた顔を上げ、眦を少し下げるとホッと息をついた

「なんでも?」

「えぇ、なんでもお話しください」


マリーはこれから、きっともっと仲良くなれると直感が言っていた


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