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第四十話 反乱軍は人材不足に船不足

ルークやフランツと長い間接触していたアラスターは帝国軍に完全に目をつけられていた。

監視の目を逃れるべくカナリアの地方都市であるグダニイルにまできてもなお街中では常に監視する様な視線を感じずにはいられなかった。


アラスターは正直鬱陶しいとは思っていたがそんなことなどお首にも出さず港町であるグダニイルの街を散策していた


その日もお気に入りのハットにラフな少し短い燕尾服を着て杖をコツコツとつきながら魚市場で今日の晩飯を探していた



「ほぉ、今日はタラが安いのか。どうだいおっさん、これ二つで10フレルでどうだい。」

「あぁん?誰かと思えばレッドラップの旦那か。いつも贔屓にしてもらってるからなぁ。まけとくよ」


そう言って魚屋の店主は片手を出した。先に金を払えということなのだろう

アラスターはニコリと微笑むと彼の手に一つ二つと硬貨を数えながら置いて行った


「一つ二つ三つ四つ、今何時だったかな?」

「あん?今は七時だな」

「そうかい、八つ九つ十。これでいいかい?」

「あいよ、毎度あり」


小細工がバレないうちにそそくさと袋に包み、また雑踏の一部に戻っていく

「ったく、あのおやじめ。何がまけとくだ。本来は7フレルぐらいだろう」


そうブツクサとゴチながら魚が悪くなる前に下宿している宿に向かって歩き始める


「しかし、どうするかなぁ」

彼は今、思案の真っ只中にいた。

もちろんそれは今晩の夕飯についてではない。それは先ほどタラを買ったことでおおよそ解決した問題だ。

そんな、しょうもない問題よりも重大な問題を解決すべく彼はカナリア屈指の港町グダニイルに来ていた。




その問題とは、彼の所属するカナリアの自由を取り戻すための地下組織

「カナリア解放軍」には海軍と呼べるものがいないことだった。

内陸の国ならこんなこと心配する必要もなかったのであろうが旧カナリア共和国の領土は国境の三分の一が海に囲まれる立派な沿岸国家なのだ。



おまけに最大の貿易港には、駆逐艦2隻・軽巡洋艦1隻・重巡洋艦1隻からなる帝国軍植民地駐留艦隊が常に停泊しているのだ。

コイツらをどうにかしないことにはカナリア共和国の解放は夢のまた夢と言ってもいいだろう。




しかしまぁ、考えてみれば当たり前のことなのだが、帝国軍に気づかれないために地下に潜って活動している彼らは軍艦はおろか、艦船と呼べるものを一隻たりとも保有してなどいないのだ。

しかし、一から船を作るなんていうこともできない。

古くからあるカナリア共和国官営の造船所は完全に帝国軍に掌握され「帝国軍第十八ドック」という名前に改称されている。


しかし、艦船などどこにいけば手に入るかなど見当もつかないので、アラスターは港町たるグダニイルまで足を伸ばし、良い方策がないかと思案に暮れる毎日を一ヶ月ほどおくっていた。


「うーむ、港町にくれば兵員輸送程度はこなせる揚陸艇クラスは手に入るものと思っていたが……。中型以上の艦船は全て帝国軍の監視下に置かれているとはな。これでは反乱の決起する以前に取り締まられる可能性が高すぎる」


帽子を目深に被り、形の良い顎に手を当て海岸沿いの家路を歩んでいると、目の前から先ほど自分が歩いてきた方の市場に60名ほどの帝国軍人が走って向かって行った。


「ん?なんだ?」


アラスターが兵士たちを目で追って振り返ると、『ドカン!』という大きな爆発音と共に帝国軍管轄の沿岸警備基地から煙と火が上がった。

同時に剣戟の音や銃声が鳴り響き人々が大挙してこちら側に逃げてくるのが見えた。


「おい!君!向こうで何があった?」

アラスターは向こうから走ってくる男を捕まえると何があったのか事情を聞いた。


「あ、あぁ。そ、それが……海賊が…奴らの基地を」


男は慌てていた様でなかなか要領を得ない回答ではあったがどうやらこの付近を最近荒らしまわっている海賊が帝国軍の沿岸警備基地を襲っている様なのだ。


ただ、海賊と言っても大航海時代の様に帆を張って航海をしたり、北の国で言うバイキングの様な野蛮人でもない。

近代的に武装された彼らはこの辺りの海における傭兵であり略奪者だった。


そう、帝国軍にこの国が占領されるまでは。


昔の彼らは金を払えば船を襲う他の海賊たちから守ってくれるし事前に決められた上納金を渡していれば略奪もしない、話のわかる連中だった。

商人たちや沿岸の街の長官たちも海賊に襲われるよりマシと、払う金は必要経費と割り切ることで良好な関係を保ってきた。


しかし、帝国軍がこの国を占領したことで状況は一変。

帝国軍駐屯部隊は海賊の駆逐を決定すると各島に点々と存在していた海賊たちを襲った。

海賊たちは解散を余儀なくされ、今では話にも聞かなくなっていたが、まだこの苦しい稼業を営むものたちがいるとは知らなかった。



その時、彼の頭に一つ妙案が浮かんだ。だがそれは危険な賭けであり、カナリア解放軍のリーダーであるフランツが納得するとは到底思えなかった。











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