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第三十八話 道中

俺は次の日にバラト大佐に返答を伝えるべく天幕に向かった

バラト大佐の補給大隊では対パンドラ戦線の配置転換のために大きく前進をする用意を進めていた


兵士たちはトラックや荷馬車に物資の積み込み作業で右往左往としていた

「その荷物は大きく揺らすなよ!」

「木箱はあっちって言っただろ?テメェはさっき言われたことも覚えてられねぇのか!」

「すいません!すぐに換えを持ってきます」


うーん、こうやってみると前世の営業の仕事で工場とかに出向いたのを思い出す


もっとこうなんか某下町がロケットを作る話みたいに厳しいけど心は通じ合う的なやつかと思ってたら罵声と怒号の飛び交う職人達の集まりみたいな感じだ


まぁ、軍隊は何かを生み出す組織じゃなくて破壊していく組織だから工場以上にその点はシビアかもしれないな


そんなことを考え補給基地をぐるりと回って天幕の前までやってくる

天幕の前にはライフルを背負った兵士が二人、一糸乱れぬ立ち姿で俺を睨め付けていた。言うなれば英国宮殿警備隊みたいな感じだろうか。


俺が天幕に入ろうとすると二人の片割れが俺の前に立ち俺の顔の位置まで腰を曲げ目線を合わせてきた。


直立不動のまま腰だけ六十度近く曲げて目線を合わせてくるものだから思わず吹きそうになった。

はっ、まさかこれは俺にボロを出させるための作戦かいかんいかん笑わぬ様にしなくては。そう思い一つ咳払いをして用件を述べる

「バラト大佐にお取り継ぎいただきたく」

「一介の伍長が大佐殿に面会ですと?なんのご用ですかな?」


俺の前に立ちはだかった兵士は訝しげに俺を睨みながら片手を顎にあてる


「それは取り次いでいただけばわかること、重ねてお取り継ぎをお願いする」

「ふぅむ、その様なお話は聞いておらぬがな。お前はどうだ」

そう言いながら兵士は隣の眠そうにしている男に声をかける


その眠そうな男は声をかけられると重力に負けそうな瞼をこじ開け目を凝らしてこちらを見た

「はい?あー、取次の話ですか?別にいいじゃないっすか。大佐殿から『特に誰何の必要なし』って言われてますし」


「いや、しかしだな?それでは我々がここに立つ意味がないではないか」


「いやいや我々がいるからこそ————」

「いらないって言われてるならいいじゃ———」


2人は段々お互いに近づいていくと俺の目の前で通すだの通さないだのと言い争いを始めてしまった。

参ったなさっさと事は済ませてしまいたいんだが……。


(あ、名案を思いついた)


そう思い俺はそっとその場を離れ少しした後に2人の元に戻ってきた

2人は俺がいなくなったことを訝しんだようで

しきりにあたりを見回していた


「あー、今ここに俺が来なかったか!?」

「あ?戻ってきてどうした?」

と最初に目の前を塞いだ男が言うので俺は掴みかからんばかりの勢いで男に詰め寄った


「馬鹿野郎!そいつが内通者だ!でかい図体して変装も見破れないのか!?」


そう言ってやると男の顔はタコのように真っ赤になった

「なぁにぃ?くそぉ!」

そういうや否や彼は駆け出してしまった

隣にいた眠そうな兵士は一つため息を吐き俺に向き合った

「随分とまた面倒な芝居を打つんすね」

どうやらコイツは騙されなかったらしい


「まぁな」

「自分は別にあなたを引き止める理由がないのでお通ししますよ」

そういうと彼はヘルメットを深く被り直すと立ったままコクリコクリと頭を揺らし始めた


どうやら邪魔立てはされない様なので俺は遠慮なく天幕をくぐる


くぐった先にはバラト大佐と少佐の徽章をつけた男女が三人で地図と睨めっこをしていた。


「失礼致します!ルーク・バックハウス伍長、参りました」

意を決してバラト大佐に声をかけると彼は顔を上げ人好きのする顔でニヤリと笑った








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