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第三十五話 何の為に

トロッコ問題ってのが前世にいた頃よく話題に上がってた。

たしか、色々な二択があるがよく聞くのは『猛スピードで進むトロッコの分岐点の先に5人の作業員がいる。しかし、もう一つの分岐点には一人の作業員がいる。あなたは5人を助けるために1人が死ぬことを容認できるのか』って言う胸糞悪い話だった記憶がある。だけど分岐点を切った先に何があるか見えてるだけあの問題は優しいとも言えるだろう。


だって今はどちらが最善かすら見えてこないのだから。


正直、俺はきめあぐねている。


フランツの所属する第八師団に行くことで身の安全は保障されるだろう。しかし、ヘレナを助けてやることはできない

逆に今のままバラト大佐のところに残ればヘレナは助けられる。

フランツの手紙にも書いてあった通りバラト大佐は俺たちからすれば良識派だ。おそらく俺たちを邪険にするどころか実力を示せば厚遇してくれそうな勢いだ。


前世でも今世でもここまで重用されたことがなかった俺からすれば嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な気持ちだ。


正直本心としては身内でもないのにこれだけ評価してくれているバラト大佐に着いて行きたいとは思っている。しかし、俺たちはルイスを除いてカナリア出身だ。

その事実がこれからどんな風に災いしてくるかわからない以上簡単には決断できないのが実だった


安全策を取るならフランツのところへ行くべきだ。そうやって俺の心に囁きかけてくるのは天使だろうか?悪魔だろうか?


そんなことを考えながら宿舎まで戻り自分達の部屋に入ると3人がテーブルを囲んで談笑していた


「このモモの缶詰なかなかに行けるな」

「こっちの乾パンも全然固くないや。列車で食べたのとは大違いだよ」

「アタシの選んだこの輪切りのパイナップル缶だって悪くないよ?ほら一口食べてご覧」


その光景を見て俺の腹が思わずグルグルとなってしまう。

そういえば、朝食をまだ食べてなかった。

「俺の分残ってるよな?」

「もちろん!」

そう言うとベル君が待ってましたとばかりに奥の木箱の方に向かっていく

「意外と早かったな?その感じだと認可が降りたのか?」

「いや、まだ確定ってわけじゃない」


口いっぱいに缶詰のフルーツを詰め込みながらルイスが質問してくるので苦笑しながら俺も自分の席に座りながら返答する

「ところで、なんでこんなに贅沢な朝食なんだ?」

「それはね、ここが補給基地ってことが理由みたい」

そう言いながらベル君が缶詰が山盛りの木箱を抱えながら奥から戻ってくる


「補給基地の大規模な前進に伴って馬匹に積み込みきれない消耗品は今のうちに俺たちで楽しんでしまおうって腹づもりみたいだ。まったく、役得だな」

ルイスも肩をすくめながらも缶詰を開けるては止まっていない



「アタシもこんなに味のしっかりついた食べ物久しぶりに食べたわ」

スレンダー美少女のヘレナがコーヒーカップを片手に優雅にパイナップルの輪切りを食っている絵面はなかなかにインパクトがすごいが美人なだけに様になっているのがムカつくな



「というか、なんでお前自由になってるんだ?」

「ソイツが縄を外せってうるさくてな」

「そりゃ、アタシは危なくないって分かったんだから窮屈な縄なんてごめんさ」

まぁ、確かに一緒にお茶してるくらいだしそこまで危険というわけじゃないんだろうが…


俺は一息ため息を吐くとヘレナの方に向き直り机に肩肘をついて彼女を見つめる

「なぁ、話したくなかったら話さなくてもいいんだけどさ。お前の父さんってどんな人だったんだ?」


そう言うと彼女はコーヒーカップをコトリと置くと少し寂しそうな顔をしてからこちらを見る

「父さんはね、アンタみたいな人だった」

「と言うと?」


「父さんはあんまり、何かのために戦ってる人ではなかった。大義とか忠誠とかとは対極の人で自分と自分の部下が暮らしていけるならそれで良いって人だった」


ふむ、確かにそう言う性格の人間なら俺と似ている価値観の持ち主だったかもな

俺もフランツの為にここに来ていて流されながら生きてるわけだし

「それでも常々言っていたことがあった」

すると彼女はふっと小さく微笑んで昔を懐かしむような顔で唇を噛み締めた


「なんて言ってたんだ?」

「帝国の支配から解放された平和なカナリアを見てみたいって」

その時、俺の頭の中で何かがかちりとハマる音がした





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