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第二十四話 別れと出兵

あの件があってから正式にアラスターからは卒業を言い渡された。まぁあと2、3教えて欲しい事はあったが致し方ないだろう


彼自身はマリーに接触していたことが帝国軍にバレているだろうということでしばらく首都から離れ、地方でのんびり過ごすそうだ。が、まぁそんなのんびりとした事をあの活動家がするわけないのでおそらく地方で反乱分子を集める予定なのだろう


そして、フランツはマリーに帝国情報部へ今まで通り"異常なし"の連絡をし続けるよう指示した後


「あまり前線にいないと奴らに怪しまれるかもしれない。ルークとはまた戦地であえるだろう?お前が到着する前に前線の地盤を作っておかねばお前が戦死する事態になりかねない。それだけは防がなければな」

と言って別れの挨拶もそこそこに前線に帰って行った。

まったく、つくづく忙しい人だ。



かく言う俺は最近会えていなかったベル君と会いに行くところだった

彼とは数週に一度の頻度で会っていたが、会うたびに彼は身長が伸びてきているように見える。それに体を鍛えているようでこの間嬉しそうに筋肉がついてきたことを報告してくれた。


やはり俺と一緒に戦地に行くと言うのは本気なのだろう

一緒にいてくれることが嬉しいような鍛えたとはいえこんな儚げな美形を戦地に連れて行ってしまう罪悪感も感じている

まぁ、とは言え知らない場所に行く時知り合いがいると言うのはどんな世界でも心強いものだ。


なんせ俺は知り合いのまったくいない大学に進学した結果、サークルでも馴染めず学部でも馴染めなかった。マジでアレは苦痛だった…あれは俺の暗黒時代だ

そんな暗黒時代を繰り返さなようにするためにも俺はあいつを引き止めることはしない。


「あ!ルーク君!」

そんなことを考えていると待ち合わせ場所にベル君がいた。

しっかし、美形はこっちに走ってくるだけで絵になるなぁ。いい目の保養だ


「おまたせ、待った?」

「ううん、今来たとこ」


と、まるで付き合いたてのカップルみたいな挨拶を交わすと二人で連れ立って歩き出す。昔は俺より小柄だったのにすっかり俺と同じところに目線があるようになった

それでも俺の方が数cmはでかいけどな


今日ベル君と会ったのは本当に一緒に行くのかどうかを正すためだ

もちろんきて欲しいのは山々だ。しかし、彼は今でこそうっすらと腕の筋肉と胸筋もついてきて同年代の子たちの中では背が高い方だが、元は泣き虫の物静かないじめられっ子だ。

そんな子を無理に連れて行っても望まぬ結果になるに違いない、となれば意思を確認するのは重要だろう



「なぁ、ベル君」

「ん?どうしたの?」

彼は小首を傾げてこちらを見てくる


「あー、最近はいじめらることは無くなったか?」

「うん!ルーク君に追いつくために頑張って体を鍛えてたら何にもされなくなったよ」


(やはり筋肉!筋肉は全てを解決する!)

と、どこからかネットミームの声が聞こえたような気がしたが奴が言ったことは嘘ではなかったようだ。まったくこんなところでもネットミームを思い出すとか…生粋のオタクじゃないか


そんなことを思って勝手に凹んでいるとベル君が心配そうに目を向けてくる

「やっぱり、僕がついていくのは迷惑かな…」


そう言いながら彼の目に涙が溜まっていく。

「ごめん、僕は泣き虫だし弱いもんね…ルーク君が頑張ってる間も僕は大して強くなれなかったし。」


あわわ、泣かせちゃったよ

どうするかなぁ、俺はそんな泣かれるような人タラシでもなかったしこう言う時の対処法とかわからん。イケメンだったらうまい言葉が出てきたりするのだろうが、あいにくと俺はフツメンだ。


「そんなことないよ、ベル君には一緒に来て欲しいと思ってる。けど、死んでほしくないのも本当なんだ。だから僕は君の意思を尊重するよ」


そう言うか言い終わらないかのうちにベル君は俺の肩をガシッと掴むと涙目で首を横に振る

「一緒で良いに決まってるじゃないか。僕はここに一人残されても何にも楽しいことなんてない。だったら君と行くよ!」

「そこまで言うなら分かった。なら、一緒に行こう」


そう言うと彼はこちらに目を向け顔をパッと輝かせて嬉しそうに笑った

「わかった!よろしくね!」


こうやって間近で見ると華奢で一瞬女の子なんじゃないかと錯覚してしまうな


まさかだが、転生して俺の趣味趣向が変わったとかないよな俺は生粋の女の子好きなんだ。

いくら美形でも男はナイナイ


だがこれで、ベル君と別れずにすんだ

あとはいよいよ今日の午後に徴兵官が来るからソレと一緒に徴兵事務所に行くだけだ


まったく昨日は本当に嬉しくない誕生日だった

あぁ、本当に未だに戦場に行くなんて信じられないが行かなくてはならないなんてな


「じゃあ、俺はそろそろ家に帰るよ。徴兵官がそろそろ家に来るだろうし」

「わかった、じゃあまた向こうで」

「あぁ、そうだな。また向こうで会おう」


そう言って俺たちは別れた



ーーーーーー


家に着くと軍服を着た将校が玄関前で母親と話していた

「ですから、うちの子は少し遊びに行っているだけでして」

「そんなことを言って、徴兵から逃れようたって無駄ですよ」


どうやら揉めているようだ。様子を伺うべく俺は物陰に隠れ聞き耳をたてていた


「これは第八師団副師団長の直々のご命令です。逃れることはできません、もし匿うなら家族まとめて罪人となりますが、それでもよろしいか?」


「そんなことはわかっています。すぐに帰ってくる筈ですから少しぐらい待ってください」

軍人の脅しに対しても毅然として母は対応していた


「なんだ!その口の聞き方は!旦那が大佐だからといって調子に乗るなよ!植民地人風情が!」


今にも手を出しそうな勢いだったので慌てて俺は飛び出した


「あぁ、すみません!ただいま帰りました!」

突然現れた俺に軍人は驚いた様子だったが俺が件の人間だと分かると怒りの矛先をこちらに向けた

「貴様!これから上官となる人間を待たせるなど言語道断だ!大佐の息子でなければ鞭打ちものだ。ではすぐに荷物を持て徴兵事務所まで行きそこから戦地行きの列車に乗ってもらう」


「はい。わかりました」


俺の悪夢の日々が間も無く始まる

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