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第十一話 ベル・マクスウェル

人と話すのが嫌いだったわけじゃない。

なんなら人の話を聞くのも人に話を聞いてもらうのも大好きだ


夜遅くにしか帰ってこないお母さんは出来る限り僕の話を聞いてくれるし、時々出張先から帰ってきてくれるお父さんも僕との時間を大切にしてくれているのはよくわかってる


それでも、やっぱり寂しいと思うのは僕が欲張りだからなのかな




数ヶ月前に初めて近所の友達の輪に入ろうとした。


最初、男の子たちはボール遊びの仲間が増えたって喜んでくれていたのに女の子達が僕とすぐ仲良くなったのを見て急にムッとした顔をしてくるようになった。

いまだになんでかなんてわからない


その次の日に同じ場所に遊びに行くとお父さんのいない1人親だって言われた


「たしかにお父さんは出張に何度も何度も行くから見たことないのかもしれないけどお父さんはいる」

って言ったら


「うちの母さんが嘘ついたって言うのか!」

って怒鳴られて殴られた

すると他の子達も次々にお前は一人親だ、そうじゃないわけがないって口々に言われた


後で知ったことだけどその子はこの辺りの家の子達のガキ大将で逆らうとダメらしい



それから何度その遊び場に行っても無視された。

「なんで無視するの?」

と聞くと今度は『生意気だ』と言われて暴力を振るわれるようになった


そのうち昼間に外に出ていると近所の子達に見つかっていじめられるようになった

"近所の子達"はだんだんと"いじめっ子"に変わっていった


そのまま昼に外に出る機会が減っていき早朝の誰もいない時間に本を読んで過ごすようになった。おかげで難しい言葉をたくさん覚えて大人達の会話も少しは意味が理解できるようになった。


だけど、そのことを自慢できる友達も自分と話してくれるような大人も周りにはいなかった

そのことがこの上なく寂しかった


そんな日々がずっと続くのだと思っていた

しかし、あの日僕の人生は大きく変わったのだ


ルークと名乗る少年は他の子達とは違ったのだ。本を黙々と読む僕を気味悪がるどころか話しかけてくれたし、僕の知らないようなことをたくさん教えてくれた。


それに何より彼は賢かった。僕が読んできたたくさんの本に書かれていない、新しいモノの見方を教えてくれた。


そんな彼との朝の密会はとても楽しかった

毎日をその時間のために過ごしていた

だが、少し前から彼の様子が少し変わり始めた。


沈痛な面持ちになり何かを深く考え込むことが増えた。きっと、僕なんかには思い付かないような難しいことを考えているのだろう。


そんないつものような朝に彼は問いかけてきた

「あのさ、もし俺がいなくなっちゃったらどうする?」

そう聞かれ頭の中が真っ白になった



「そんなのいやだ!一緒にいてくれなくなっちゃうってこと!?」

そういうとルークは嬉しそうに笑ったあと寂しそうな顔で

僕にもわかるように戦争に行かなきゃいけなくなったこと、逃げることはしないこと

離れ離れにはなりたくはないが仕方のないことであることを説明してくれた


そんなルークの言葉を聞いて僕は反射的にこう答えた

「ぼ、僕もついていく!」

ルークは驚いた顔をして必死に引き留めようと言葉をかけてくれたがそんなものは耳には入らなかった




だって、何よりルークと離れ離れになることが嫌だったから



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