フランツ・バックハウスは軍人だった
トランス帝国領カナリアの現地軍人で近々新設される第八師団所属に所属する予定だ
カナリア共和国が帝国の植民地となって早50年そんな負の歴史を持つカナリア共和国軍が解体され帝国領カナリア軍が再編されて40年そんな中でも彼の軍歴は長い。
20年前帝国の尖兵と揶揄されるようになったカナリアと国境を接する国、パンドラとの戦争が始まった初期から青年士官として前線に赴任している古株だ
現在の彼の階級は大佐で、植民地の現地軍人としては非常に高位だ。そのため同じ植民地の現地徴兵組からは英雄のような扱いを受けることもしばしばある。
さて、周囲からの期待を受け今年35になる
そんな彼に嬉しい出来事が起こった
妻のサラに子ができたのだ!これほど嬉しいことはなかった結婚して既に10年が経過し自分達には子は望めないものと思っていた矢先のこの吉報に彼は色めきたった
今すぐにでも駆け出してサラと生まれた子供に会いに行きたい!
そんな思いを抱きつつ上の空で仕事をしていた
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「…ンツ大佐、フランツ大佐!
フランツバックハウス!」
「ハッ!失礼いたしました!ブライ准将!何か問題が発生しましたか?」
声をかけてきたのは副師団長のブライ准将だ
彼はもうすでに60を超えた老将でシワの刻まれた顔は見るからに苦々しい風であった
フランツは彼のことを少々苦手にしていたがそんなことはおくびにも出さずに見事な敬礼で答礼した
「あぁ問題だな、今日の貴官は仕事があまり捗っていないようだが?」
ブライ准将は呆れたように肩をすくめながら
職務の怠慢を指摘する
たしかに今日のフランツは少し、いやとても集中できているようには見えなかった
「ハッ!小官はいつもただしく職務を遂行していると自負しておりますが…」
「建前は良い、別にお前がいつも職務に忠実であるということはわかっている。だが貴官の働き一つで現地徴兵軍人たちの待遇が大いに変化することを覚えていてほしいものだな」
と、食い気味に注意をされてしまう
だが、これも事実なのだグランツのような現地徴兵軍人達はブライ准将のような宗主国からの出向組と比べると地位は低く
グランツの階級である大佐ですら現地徴兵組はグランツ1人しかいない
将官級になると1人もいないのが実情だ
そんな事情もあって
「貴官は現地軍人たちのまとめ役だと考える本国の上層部連中も多い。本国はただでさえ反乱が各植民地で起こらないか気が気でないのだ気をつけたまえ。」
と、小言を終えると少し微笑んで
「仕事が進まないのには何か理由があるのかな?」
と、好好爺めいた顔で尋ねた
「その通りであります。ブライ准将
実はお恥ずかしい話なのですがこの歳で初めて子供ができるのです。その子の出産が今日でしていても立ってもいられんわけです」
「ほぉ!それはいい!なら、早く行ってやりなさい今日は特例で早上がりにしといてやるから」
すると、ブライはその深く皺の刻まれた顔に先ほどよりもさらに深く笑みを浮かべて言った
「それは本当ですか!しかし、よろしいのですか?この師団は編成途中今私がいなくなって…」
と、躊躇いがちにフランツが聞くと
「今のお前にいてもらったほうが迷惑だ。さっさと帰って奥さんと過ごしてやりなさい」
そう言ってブライは扉の方を指差した
「りょ、了解いたしました!それではお言葉に甘えて失礼させていただきます!」
拍子抜けしたような顔のままフランツは
師団司令室を足速に出ていった
事務所の扉がしまったのを見届けたブライの顔は先程までの笑顔が消え憐れむような目をしていた