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第二十八話 新婚さん

婚姻の儀が終わった次の日、俺はいつもの寝室で目が覚める。

隣には妻となった、エリーが……。いない

当たり前だ。先日はまだ言葉を交わすのも3回目、この世界ではそんなの当たり前とはいえ、前世の倫理観でワンナイトラブの様な引け目があって寝室に招待することができなかったのだ


こんな生真面目な倫理観を持つと言うので察せるだろうが俺は前世では所謂DTな訳なのだが、どうやってお誘いするのが良いのかさっぱりだ。


まぁ、この件は人生経験もあって息子もいるスコットあたりにこっそり相談するとして

俺は一先ず寝巻きから着替え、当直のセシルを連れてすっかり片付けられた広場に向かった


セシルは俺が寝た後、館の召使達に片付けを命じていた様で先日のどんちゃん騒ぎの跡はカケラも残っていなかった


「流石に仕事が早いな」

「えぇ、この館の者達は本当に働き者ですよ」

「喜ばしい事じゃないか」


広場では小鳥がさえずっており、巡回の兵士も槍を持ってゆっくりと歩いていた。

そんな穏やかな時間が過ぎている広場にエリーがいた


「おはよう。エリー」

俺が声をかけると当のエリーはビクリと肩を震わせてこちらを見るとホッとした様に息を吐いた


「ルイ様、おはようございます」

「ハハハ、様づけなど不要です。これからは夫婦ですからね、ルイとお呼びください」

エリーは驚いた様に小首を傾げた後頷いて恐る恐る、声を上げた


「え、えっと。ルイ」

「はい」

返事をするとエリーはふふふと笑い俺も釣られて2人で微笑みあってしまう


しばらく2人で見つめあっていると後ろに控えるセシルがゴホンと咳払いをした後、手で館の方を示した


俺はそちらを見ると召使い達がキャッキャとこちらを見ながらはしゃいでいた

「どうしたのです?」

エリーが俺の方を向いて質問するが俺は「なんでもないさ」と言ってエリーの手を取ってそのままセシルを連れて館内や広場を散歩した


そしてしばらく散歩していると背後にいるセシルから声がかかった

「若様。心苦しいですが、そろそろ執務の時間でございます」

「そうか、わかった。エリー、それでは執務に戻る。また夕方に会おう」

「えぇ、私も今日からスコット殿の奥様から奥方としての役割を学ぶことになっています。お互いに頑張ってからのお楽しみですね!」


エリーはイタズラっぽく笑うと侍女に手を引かれて自室へと向かっていった

俺はそんな様子をポーッと眺めているとセシルが肘で俺の脇腹をつついた

「本当に、いい奥方を頂きましたね」

「う、うるさい」

俺は照れ隠しにくるりと身を翻すと執務室へと向かった



執務室に入るとハンターが客用の椅子に座って待っていた

「今日は休んでも良かったんだぜ?」

ハンターが肩をすくめてこちらに声をかけて来るが俺の答えは決まっている

「バカ言え、刻一刻と情勢が変化してるんだ。催し事の直後とは言え、休んでなんていられないさ」

「仕事熱心で何より何より」

ハンターは椅子から立ち上がると執務机の前に立った


「一先ず、頼まれてたハーピー家との会談の日程調整ができたぞ」

「ほう?いつになったんだ?」

ハンターはウィンクをしながら奥の扉を指差した

「今だ」

「は?」

俺は今まで出したこともない様な声を上げてハンターを見た。

いよいよ、こいつは頭がおかしくなったのかと思ったが奴の目は真剣そのものだった


「じゃあ、何か?扉の向こうにハーピー家の使者が居るって?それは日程を調整したとは言わないんだが?」

「まぁ、細かいことは気にすんなって。それに聞いておどろけ?今日来てるのはただの使者じゃない。ハーピー家の一門衆だそうだ」

「なんだと!?一門衆となるとほぼほぼ交渉の全権を持っていると言っても過言ではないぞ」


心なしか声を潜めてハンターを責めるが当の本人はどこ吹く風だ

「だろうな、でも良かったじゃないか。武力行使に出て来る訳でもなくこうして話し合いに来てくれたんだから」

「だとしてもだ。最初は挨拶だけの予定だっただろ?こっちにも準備ってものがある」

俺が慌てて交渉についての算段を考え直そうとすると不思議そうな顔でハンターは肩をすくめた


「なにを準備するんだ?防御力の増強は砦の確保で成った。婚姻の儀もすんで対外的にもノーブル様との盟約は周知の事実だ。これ以上の準備はいらないだろう?後はルイ殿の度胸だけだな」


ハンターはヘラヘラと笑うと執務室を出て応接室へと向かった

「やるしかないかぁ」

俺のため息にセシルが頷く


「行くぞ」

俺は自分に語りかける様に息を吐くと応接室の扉を開いた


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