俺は兵を連れて、捕らえた山賊や頭領であるグエンの首を掲げて凱旋した
城下には市民や噂を聞きつけた近くの村から人々が集まっていた
俺は馬上で手を振り彼らの声援に答える。前世の日本でよく言っていたお手振りってこういう気持ちだったんだな。恥ずかしい様な、それでも誇らしい様な不思議な感覚だった
そうして館まで戻ってくるとセシルが出迎えに兵士を整列させて待っていた
「若様、おかえりなさいませ」
「あぁ、ただいま。すまないが疲れたので俺は寝る。兵達を解散させて諸々の出費を持って明日の昼に執務室へ来てくれ」
「承知しました」
セシルは頷くとテキパキと兵や館の者達に指示を出していく
すっかり館の管理人の様な顔つきになっていて思わず笑みがこぼれる
そんな彼を横目に俺は寝室へと向かった。
ーーーーーー
次の日の昼
俺はセシルから報告を受けていた
「今回の出兵では各員への恩賞などを加味して金貨20枚ほどを消費しました。他に戦死者が9名、負傷者が20名程とほぼ無傷の勝利に近いです。本当にお見事の一言に尽きます」
「いや、死んだ9人はただ一つしかない命をこの領地の安寧の為に投げ打ってくれたのだ。もちろん対局的に見れば微々たるものかもしれないが人が一人でも死ぬことに慣れてはならない」
俺の言葉にセシルは頷いた
「そうですね、大勝利というのはやめておきましょう」
「あぁ、亡くなった彼らの親族には見舞金を出しておいてくれ」
「承知しました」
次に、セシルは絵図を広げた
「次いで、現状の確認をさせていただきます。若様の支配する村は4つ、開拓村を入れれば5つになりますね。内、1つは今回の恩賞にスコット殿へ、開拓村を含む二つの村はハンター殿に与えていますから。残り自由に扱える村は2つ程になりますね」
「そうだな、残る二つはこれからの知行としても残さなければならないし、俺個人への収入として力にしないといけない。これから家臣も増えていく、曲者揃いの家臣を束ねるには財力と兵力が俺個人にも必要だ」
「全くもってその通りかと思います」
セシルはこの期間で彼らに振り回されているので嫌というほどわかっているのか何度も頷いている
「それと……。婚姻の儀式を正式に行なってエリーを…。その…こ、この城に迎えなければな」
俺はできる限り平静を装って言葉にしたつもりだったがセシルは微笑ましい物を見る様にニコニコとしている
「なんだよ!別にいいだろ?まさか援軍の交渉に行って結婚相手が決まると思わないじゃないか」
「えぇ、本当に。いまだに私も信じられません。ですが、あれだけしっかりとした方なら問題ないでしょう?」
セシルはニコニコと笑って頷いている
「それでは、婚姻のための予算として金貨15枚を計上する。今なら山賊退治の直後で領民感情も悪くないから多少豪勢にやっても反感は買わないだろう。盛大にやってくれ」
「承知しました!」
そう言ってセシルは嬉しそうに執務室を出ていった
結婚式か、前世でもした事が無かった訳だし初めての経験だ。楽しみな反面緊張もする。
俺は息を一つ吐いて、父と義父になるノーブル殿への招待状、そしてエリーに向けた正式な婚姻の申し込みの手紙を書くことにした
しかし、ペンを握っても言葉が継げなかった。どんな言葉も薄っぺらく感じ、構想を練っては頭を横に振り、また練ってはかぶりを振った。
まともに前世で恋愛もしていなかったことが悔やまれる。そうして、一晩かけて手紙を書き上げて幽鬼のような顔で手紙を届けるようにセシルに渡した時にはギョッとした顔をされ、即座に寝室へと放り込まれたのはここだけの秘密だ