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第二十二話 山賊達の大誤算

グエン達は砦から少し離れた位置に潜んでいた。敵が砦を攻め始めたら砦側から角笛で合図をすることになっている


そうしてしばらく潜んでいると遠くから大量の足音が聞こえて来た

「来たみてぇだなぁ」

グエンはルイを倒した後にどうやって成り上がって行くかで頭がいっぱいだった。城を奪うこともできるし紐付きの村を襲って女子供を攫うのも悪く無い。自分が城主と呼ばれる日も近いのだと思うと自ずと口角が上がり笑みが溢れていた


そんな耽美な夢に浸っていたせいかその足音が過ぎてしばらくしても戦いの音が全く聞こえないことに気が付かなかった

しばらくした後、森の中に角笛が鳴り響いた


「よし!テメェら!にっくきキャラハン家のガキをぶっ殺しに行くぞ!」

「「おう!!」」

山賊達は雄叫びを上げながら砦の方へと向かって行く

しかし、どれだけ砦に近づいても敵の兵士は1人も見えなかった


グエンが流石におかしいと気がついた時にはもう遅かった

一団の戦闘が砦の前まで出たところで先頭の部下の悲鳴が聞こえた


グエンが慌てて先頭に追いつくと愕然とした

砦には兵士達が弓を構えていた。その櫓の上にはにっくきキャラハン家の小倅、ルイ・キャラハンが得意げな顔で立っていた。


「な、なぜ……!」

グエンが言葉を失っているとルイの横に立つ男の存在に気がついた

「テ、テメェ!!裏切りやがったのか!?殺さないでやった恩を忘れやがって」

ルイの横に立つハンターは大笑すると小馬鹿にした顔で指を指してきた


「馬鹿野郎め!殺さないでいる事が恩になるもんかよ!恩って言うのはこう言う事を言うんだ!」

そう言うハンターの手には数枚の金貨が握られておりジャラジャラと重厚な音をたててハンターの手に弄ばれていた


「スゲェ、金貨だ……。」

部下の山賊達の中から声が漏れ出るのをキッと睨みつけると今度はルイが笑った

「いま、降伏してそこの大将の首を持ってきた奴には金貨を与えるがどうだ?」

その言葉を聞いた5人の山賊が一瞬の迷いも無く嬉々としてグエンに襲いかかるがグエンは湾曲した大剣を抜くと一撃で5人全員のの身体を真っ二つにした。


流石に、他の山賊達はそれを見せられた後に襲いかかる気にもならずすごすごと後退りした

「テメェら!妙なこと考えてるんじゃねぇぞ!それに、奴からちょっとの金貨を貰うより奴を殺して溜め込んだ金貨を分捕る方がいいじゃねぇか!」

そんな彼の言葉に元気づけられた山賊が気炎をあげる


その様子を見ていたルイはそっとため息を吐くと右手を上げた

次の瞬間角笛の音と同時にグエン達の頭上に弓が降り注いだ


「一旦、森の中へ戻るぞ!」

その声に山賊達が森の中へと戻ろう方向転換すると森の中から鎧を身に纏い騎乗した老将に率いられた兵士達が現れた


「ここでワシらの手柄となって貰おうか」

その老将の言葉は底冷えする様に冷たく、その目はギラギラと輝いていた

「ク、クソガァ!テメェら!このままだと全滅だ!なんとしても切り抜けるぞ!」

しかし、その言葉に気勢のこもった声で返すものは少なく、既に一部の部下は逃げ出していた


「かかれぃ!」

老将の言葉に兵士達が残った山賊達に殺到した

グエン達は知る由もないが彼らの大半は山賊達に親兄弟を殺された領民兵だ。籠る気迫が違った


山賊達も必死に応戦するが背後からの矢も相まって右往左往するばかりであっという間に数を減らしていった

「ちくしょうめぇ!かかってこいやぁ!」

そう言ってグエンは何度も大剣を振り抜いて部下の山賊諸共、領民兵たちを片っ端から切って回っていた。

流石にこれ以上の被害は出せないと踏んだのか目の前に先程の老将が馬に乗ってやって来た。

「じいさん、老先短い命が惜しいなら俺の前にたたねぇ方がいいぜ!」

俺が吠えると爺さんは済ました顔で馬上で槍を振った


「お主の様な小童ではワシに傷一つ付けられるまいな」

「なにぃ!その言葉を吐いたことあの世まで後悔させてやる!」

そう言ってグエンは大剣を馬脚目掛けて振り抜くと老将は巧みに手綱を引いて馬の脚を引かせると槍でグエンの腕を突こうとするがグエンも身体を逸せて見事に槍を避けてみせた。

「やるではないか」

「爺さんもなかなかッ!」

叫びながらグエンは今度は逆袈裟に大剣を振り上げる


「うぉっと、とんでもない怪力じゃなコイツは」

老将は更に騎馬を引かせると老将を守る様に若い男が手綱を握る1騎の騎馬が割って入る

「父上、お下がりを」

「邪魔だ!テメェ!」

そう叫びもう一度大剣を振り抜こうとすると背中に鈍い痛みが走った

「グゥッ……!」

グエンが痛みを堪えて振り向くと背中から矢が生えているのが見えた

「クソッ…」

そこへ、更に槍が脇腹へと刺さる

槍の持ち手へ目を向けると槍を刺した歩兵が怯えた目をしていた

グエンは目を怒らせてその歩兵に近づこうとするが背後に大きな気配を感じ、首をゆっくりそちらへ向けると先程の騎乗した老将が立ちはだかっていた

「これまでか……。」

彼の呟きが終わるか終わらないかのうちに老将の槍がグエンの胸を貫いて持ち上げた事によって身体が宙に浮いた


グエンは最後に血を噴くと不敵な笑みを浮かべて血反吐を老将へと吐きつけた

だが、老将はその血反吐をも顔を少し動かしただけで避けてみせた

「チッ…。」

グエンは一つ舌打ちをすると手先からゆっくり力が抜けていった


「敵将、このスコット・シールズが討ち取った!」

「「おぉ!!」」

その叫びを遠くに聞きながらグエンの視界は暗転していった

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