次の日、兵士の集結が終わったと報告が上がったので城館の広場へと向かうとスコットとセシル、ハンターが兵士を後ろに従えて整列していた
内訳としては四つの村から山賊討伐ということで志願してくれた領民兵が約30人ずつで120人、父から借りた歩兵が100人、スコット率いるシールズ家の騎兵6騎と歩兵24人で総数250人が揃っていた。
「よし、揃ったな。今から我々はこの周辺の山賊が糾合した一団を完膚なきまでに叩き潰す!奴らを潰せば領内の盗賊活動は激減するに違いない!諸君らの奮闘で子供達の平穏な生活が作られると心得よ!」
「「「おう!」」」
兵士たちは一様に槍を掲げて気焔をあげる
「よし!セシル!」
「ハッ!」
「お前には父から預かっている兵の内50人を預ける。俺たちの留守をしっかり守ってくれ」
「承知しました!」
俺はセシルが片膝を落とすのを視界の端に収めながら残る兵士たちに向けて叫ぶ
「残る兵200名はついて来い!行くぞ!」
俺が馬に乗ってスコット達シールズ家の面々を連れて前進すると兵士たちは槍を背負って付き従う
今回の遠征では3日程で戻る予定の為、兵士たちに腰兵糧だけ持たせて輜重部隊を連れていない
俺たちは意気揚々と門を抜けて西の森へと向かう
その先に今回の開拓村を作ろうとしている用地があるのだが森の中に山賊が籠っていることでオチオチ物資も運べなくなっているのが現状だ。
そうして半日ほど行軍を続けると目の前に鬱蒼と茂った森とそこへ続く一本の道が見えてきた。
俺はハンターの横に馬を寄せた
「ハンター、兵を10人預ける。先に斥候に出てくれ」
「わかった。脚に自信のあるものはついて来い!」
そういって、ハンターは兵士を連れて森の中へと駆けて行った
「その他の兵士はこの地で野営する!」
「「ハハッ!」」
「スコット、こっちへ来てくれ!」
「はいはい、ただいま」
俺はスコットを呼んでセシルが作った即席の絵図を広げる
この先の森は大した広さじゃない。半分山を抱えているから標高はあるがその分平坦地は少ない。山賊がいる位置は自ずと定まってくるだろう
「一先ずは平地の位置に山賊がいると仮定して陣を敷きますかな」
そう言ってスコットは兵の配置を決めていく
そこへ、斥候へ向かったハンターが息を切らしながら戻ってきた
「まずいぞ!奴ら山の斜面を使った砦を作ってやがる!」
「は?」
俺が呆けた声を上げるとハンターは絵図に駆け寄って山の辺りを何度も指差した
「周囲の木材を材料にして斜面に陣小屋を作って完全な砦にしちまってる。あれを落とすのは至難だ」
俺とスコットは顔を見合わせて眉を顰めた
「こうなると力攻めか兵糧攻めの二択ですな」
「野戦の殲滅戦が攻城戦に早変わりか」
しかも、城もどきに篭ってる山賊は100を超えている。兵糧攻めの為に兵を貼り付けるにしてもコチラも100以上の兵士を貼り付けておくしか無い。
力攻めも微妙だ。城攻めは3倍の兵力から始めるのが基本なのにコチラは200しか居ない。こうなると倍の兵力がいるかも怪しくなってくる
弓兵の数も父から借りた兵に30名程居るだけだ。これで攻城戦は難しい
「うーむ、敵の質も分かりませんからな」
「一当てして様子を見てみるか?」
ハンターの提案に俺は首を横に振る
「今のなけなしの兵力で下手に兵数を失ったらそれこそ北のハーピー家が出張ってくる。隣接勢力の動向が掴めない以上供給の目処が立っていない兵数を削るのは避けたい」
俺の言葉にハンターもスコットも腕を組んで唸る
「しかし、彼らも我々がいては山賊活動ができない。それでも野戦で勝てるほどの戦力はない。つまり、お互いに手詰まりになってしまった訳だな」
「それならば交渉の余地はあるのでは?」
「だとしてもどうやって交渉するんだ、奴らの山賊活動を黙認しろってのは無茶だ。それじゃ悪徳領主になってしまう」
スコットは頷いて山を指差した
「彼らを雇って仕舞えば良いのです。以前もワシにその話はされましたな」
「あぁ、だがアレを今やるのか?」
「あの城には溜め込まれた金がありました。アレを使って傭兵として雇えば良いのです」
「しかし、あの荒くれ者達を城下に受け入れたら治安の悪化は必至だ」
スコットは頷いて絵図の開拓村予定地を指差した
「開拓村の用心棒としましょう。とにかく目的は彼らを半永久的に傭兵とすることではなくあの砦から誘き出すことです。平野に誘き出してしまえば奴らは調理台のカニと同じですからな」
「わかった。ハンター、あそこへ行って山賊を交渉の席に引きずり出せないか?」
ハンターはしばらく瞑目した後頷いた
「よし、やってみよう。だが、危険な仕事だ。それ相応の報酬を期待する」
「あぁ、うまくいけばお前に金貨5枚を与える」
「いや、7枚もらおう」
彼の言葉に苦笑いして頷くとハンターは口角をニヤリとあげて砦の方へと向かっていった
「あの者で良いのですかな?元山賊なのでしょう?」
「あぁ、だが此処があいつに取っての分かれ道だ。ここで成果を上げたならアイツを本格的に直臣として召し抱える」
「なるほど。それではワシらも彼奴に負けぬ様武功を積まねばなりませぬな。ハハハ」
そう言ってスコットは頷いた
俺にはひとまず、能力いかんよりも信頼に足る部下が必要だ。今はセシルしかまともに信用ができない。こう言う場面で忠誠を試していかないと強力な家臣団は作れないだろう