次の日、俺は城下の商工業者を城館にある広場に集めた
人数は10人ほどで業種としては行商人、鍛冶屋、加工職人などが主体で一部用心棒や目つきの悪いのが混じっている。
前回の市民に顔の利く古株連中とは違って彼らは城下の中でも特にギルドの支部長や商会員に当たる面々だ。
ギルドと言うとどうしても前世のネット小説で見た冒険者ギルドなんかを想起するが、ギルドとは詰まるところ同じ業種の労働者達が集まって仕事を独占することによって自分たちの権利を守る為の組織だ。
それを表立って宣言することで領主や権力者達からの仕事を受けやすくすると言う側面も持つ
そして、これらのギルドは王国全土に根を張っている。大小様々な城下や都市に支部があり王都にある本部が全てを総括しているわけだ。
ちなみに父の決起したフルデリ城は元々が村の中にある廃城を修築しただけなのでギルドの支部はない
よって、ここに集まったギルドの支部長達の支持を得ることはこの城下の商人のほとんど全てからの支持を得ることを意味する。
広場には長机を出してきて俺が奥に座り、支部長の面々が長机に向かい合うように座っている
「この度は集まって頂き感謝する!貴殿らには新城主としての挨拶と今後の活動についての告知の為に集まってもらった」
俺が胸を張って声をかけるが支部長達は興味がなさそうに明後日の方角を向いている
それを見かねたヘンリーは咳払いして支部長達を睨んだ
しかし、彼らはそんなヘンリーの怒りもどこ吹く風で一部の商人に至っては別の事務仕事をしている始末だった
数年で2度も城主が変わったんだ。一々すげ変わった城主の顔名前を覚えている場合でもないのだろうな
俺はヘンリーを手で制すると口を開いた
「さて、俺はルイ・キャラハンというものだが貴殿らに美味しい話を持って来た」
そう言っても数人の眉がぴくりと動いたのみで他の面々は退屈そうな態度を崩さなかった
俺は机の上に地図を広げた
「まず、北の都市圏と南の港湾部を繋ぐ過去の販路の再開拓を目指したいと思っている。その為に出資者を募りたい」
俺の言葉に2人の商会員と支部長は興味深そうにこちらを見るが大店の商会員やギルドはあまり反応を示さなかった
ある程度の軌道に乗っている彼らからすれば無理にリスクを負う必要がないので話に乗り気ではない様だ。
だが、一旦はそれでいい。無理に彼らを引き入れても利権を吸い取られてしまう。それなら若者やうだつの上がらないギルドを取り込むところから始めても悪くない
「この件に興味がない者は一度帰ってもらって構わない」
俺がそういうと10人中7人がやっと解放されたと言わんばかりに肩を大仰に回しながら帰って行った。
先ほどの若者2人と鍛冶屋ギルドの支部長が残っていた
「俺の考えに興味を示してくれて感謝する。まずは協力関係の第一歩として自己紹介を頼む」
俺の言葉に割腹のいい鍛冶屋ギルドの支部長が立ち上がった。
「俺はルイ殿の案に賛同したわけではない。軍事行動に鍛冶屋は必須だ。鎧兜や武器を修理する仕事は常にある。だから俺は残っただけだ。関係を崩したくないのでな」
彼はそれだけ言うと椅子に深く座って瞑目してしまった
次に若い商会員が立ち上がった
「私はトリル商会のピットと申します。新しい販路の再開拓には是非とも資金を提供したいと考えています。ただし、その分の対価はキチンと頂きたいと思ってはおります」
そう言ってピットはにっこりと俺に笑いかけると軽やかに椅子に腰掛けた
彼の第一印象としては若い野心家といった所だろうか?トリル商会はさほど大きくない中堅の商会でさらに地方城下の商会員では彼としては不服な部分があるのだろう。手綱を握るのは苦労しそうだ
最後にげっそりと痩せて目の下のクマが目立つ男が立ち上がった
「じ、じじ、自分はラークと、い、言います。ぎょ、行商人ギルドのし、支部長です」
「ほう、行商人ギルドか。しかし、どうしてその様に自信なさげなのか?」
「そ、それは。運送ギルドに全ての利権を持っていかれまして……。今となっては細々とした個人事業主の集まりに変わり無いのです…。ルイ様の言っていた新しい販路に活路を見出そうかと……。」
俺の問いにもおっかなびっくりといった風だが、それでいて妙に野心の火が灯っ目をしている。この者はこの者で使いづらそうだ。
「御三方、一先ずこの場に残って頂いて感謝する。新しい販路については追々話す故今日の所は帰っていただいて構わない」
俺の言葉にピットは軽やかに、ピットはどんよりとした風で、最後に鍛冶屋ギルドの支部長は最後まで名前を出さずにのそのそと帰って行った
後に残されたヘンリーは俺に心配そうな目を向けて来ていた
しかし、当の俺はまぁまぁな成功だなと思っていた。
誰も見向きしない事も考慮していたので一人は怪しいが3人も賛同者を得られたのは朗報だった。