目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第十四話 鞘へおさまれり

キースを見事追い返した父はその足でフルデリ城へと戻って行った

曰く、守兵が50弱しかいないのでキースが逆上してフルデリ城を攻めたらかなり危ないらしい

先ほど散々に撃退したばかりなのですぐに勢力を取り戻すことはないだろうが、城主を殺してその席を奪う程度には乱世に向いた性格なのだから警戒するに越したことはない

父はこの城の守兵として100程歩兵を残して、兵100人と共に帰城して行った

ナタリーもこれ以上ノーブル殿の城を空にしておくと危険だと言うことで挨拶もそこそこに兵を連れて城を出て行った。


ちなみに父は彼らへの褒賞も微々たるものだがノーブル殿への謝礼とは別に支払っており。ナタリーは恐縮しっぱなしだった。

だが、俺にはわかる。あのスケベ親父はナタリーも狙っているのだろうその好感度稼ぎに褒賞を渡したのだ。これで率いてきたのがナタリーでなくてイカつい男だったら父の対応はもっと塩だった様に思う


まぁ、それでも彼ら個人が俺たちの家に好印象を持ってくれたのならそれに越したことはない。


そんなこんなで城には当家の守兵100と治安維持のために集めた街の若者達50名の計150名の兵が詰める形になっていた。

だが、この規模の城を守るのに150では少なすぎる


そこで俺は城館の地下牢へと兵を連れて向かった。

地下牢には先ほどの戦いで投降した兵士達がざっと100名程いた

大半は付近の村の出稼ぎなので解放するつもりだ。しかし、数名ガタイのいいのが混じっている。おそらくコイツらは騎兵だった者達だろう。100名の捕虜のうち10名程が騎兵だったと思しき者達だった


俺はその捕虜達に近づいた。すると平民出の捕虜達は慌てて平伏したが正規兵の出の者達はコチラをチラリと見ただけで大きな動きは見せなかった

俺はそれでも構わず、鉄格子の前に座り込んだ

「平民出の者はすぐに解放してやれ」

俺の言葉に、ついて来た兵士達は捕虜達の大半を牢から出した。彼らには今回の敵対行為は不問として各々の村へと返す様に指示してある。後はヘンリーとハンターに事務は任せよう


さて、残る10名の正規兵にはきちんと話をしなければならない

よく見ると牢獄の奥に白い髭を生やした老人がおり、他9名は俺から目を逸らしていると言うよりも彼の方を向いていた

「そこの御老体。貴殿は何者だ?」

俺が問うと閉じていた片瞼を重そうに開けた


「ワシですかな?」

「そうだ」

「まずはご自身が名乗るのが先ではありませんかな」

老人の言葉にセシルが静かに剣を抜こうとしたが俺は片手でその動きを制した

「それもそうだ。俺はこれからこの城の城主になるルイ・キャラハンと言う者だ」



俺が名乗ると老人は頷いて口を開いた

「ワシはこの城の城主に代々仕えてきたシールズ家のスコットと申す者ですじゃ。加えて、この者らはシールズ家の郎党ですじゃ」


なるほど、ここを昔治めていたのは名のある騎士爵だったそうだ。その従者の家系なのだろう

「そうでしたか。しかし、あのキースとか言うのは簒奪者では?」

「然り、しかしこの様な乱世となってしまっては主家に殉ずると言うのも癪だったのでな。あの者がどこまで成り上がるかを見届けたかったのです。ですが、あっさりと居城を奪われる始末……。所詮は背後を刺すことをのみ得意とした者であったわ」


そう言うとスコットはガハハと愉快で仕方ないとばかりに豪快に笑った


「そして今度はお主が城主となったか。乱世とは素晴らしいな。ワシももう少し若ければ立身を狙ったがこの歳ではいつ死ぬかわからぬで地位を築くなど馬鹿馬鹿しいことよな!」

そしてスコットはまた豪快に笑った

「それで?ワシをどうする?一度刃を向けたのだ、処刑と言われても驚きはせぬ。ただ、頼める立場とも思わぬがワシの皺首一つで勘弁していただけないか。この者らはお主の家臣としてもよく働くであろう。どうか、この通りだ」


スコットは深々と頭を下げ、周囲の若い郎党達は涙を流していた

俺は彼らが落ち着くまで黙ってその様子を見ていたが口を開いた

「俺は貴殿らをシールズ家ごと雇うこととしたいと思っている」

俺の言葉に郎党達は伏せていた顔を上げた


「そ、それはまことでございますか…?ワシらは既に主家を一度裏切りその身を流れに任せたのですぞ?己で言うのもおかしな話じゃがまた裏切るやもしれんぞ?」

俺はスコットの言葉を一笑に付した。


「だが、常に勝っている者の味方ということだ!わかりやすくていいではないか」

俺の言葉にスコットは一瞬呆けた顔をした後今までよりも大きな声で笑った


「元服間もない子供がそれを言うか!やはり乱世とはいいのぉ!」

そしてスコットは鉄格子を挟んで俺の目の前に座り込み、深々と頭を下げた


「シールズ家の一族郎党はこれよりルイ様にお仕えすることをお約束致しましょうぞ」

彼の動きに合わせて郎党達も深々と頭を下げた

「うむ、シールズ家が当家に使えることを許可する!この者等を牢から出せ」

俺の命で兵士達はスコット達10名を牢から出した


父にはあまり温い処置をするなと釘を刺されていたが裁量権を与えられている以上家臣の登用だと押し切ればいいだろう。無駄に人を殺すと遺族や遺臣に恨まれるからな捕虜は殺さずに済む時は殺さない方針で行こう


そんな新たな方針を胸に領土開発へと心を切り替えて行った

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?