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第十三話 悲運の謀将Ⅱ

キースは強行軍で歩兵達を叱咤しながら北のシーバル城へと向かっていた

「貴様ら!急げ!奴らが城を空けている隙に城を分捕るのだ!」


彼は早期の決戦を求めていたので食糧の輸送部隊すら連れてきていなかった

そこへ城の様子を確認しに向かっていた先遣隊の数騎がこちらへと駆け戻って来た。

やっと戻って来たかとにこやかに彼らを迎え入れる用意をしていたが様子がおかしい

三騎向かわせたはずだが一騎しか居ない。それに肩に矢が刺さっており、矢が突き立っている腕をだらりと垂らしながらこちらへと駆けてきていた


「キース様!」

そういって本陣の手前まで駆け込んでくると馬から転げ落ちる様に馬から降りて、腕を庇いながらキースの前にやってきた

「何があった!」

「ハッ!シーバル城の守りは手薄な城とは思えぬほどに分厚く、我らが近づいた時には数百の矢が飛んで参りました!他二名はその矢にあたり討死しました」

「なんと…!」


キースは考えを巡らせていた。

おそらく、すでに合戦は終わっており城へ主力が戻ってきていたのか……。無念だが正面からの城攻めの用意はない撤退する他ないか

彼は歯噛みしながらも情報戦の重要性を知れたので、次回からは商人からの聞き取りを重視せねばならないな。大きな損害なくこの事を知れたのは大きい。また、次の機会を狙うしかない


そう考えて、彼は撤退の号令を出して部隊を反転させた

しかし、城に迎えの用意をさせる為に先触れを向かわせたがその先触れも矢傷を負って戻ってきた

「なんだと言うのだ!?貴様らが向かったのは当家の城なのだぞ!何故、矢傷など負っておる!」

「ハッ!城へ近づき、キース様の到着を知らせたところ問答もなく突然城兵が矢を射掛けてきたのでございます!その後、城壁にはキース様の旗ではなく尾を広げた鳥の絵が大きく描かれた旗が次々と立ち並びましてございます!」

な、尾を広げた鳥を旗印としているのは東の成り上がり者であるイヴァンのみ……。


「まさか、我らの城はあの蛮族どもに奪われたと言うことか!」

そう言うや否やキースは剣を抜いて、報告してきた兵士を一刀の元に伏し腹心と思っている歩兵隊の指揮官の方をキッと睨みつけると城の方を向いて叫んだ


「貴様!歩兵180を率いて門を攻めよ!まだそこまで防備は固くないはずだ!奴らは動員できても精々200だろう。防備の整わぬ城などあってない様なもの!一気に攻めかけよ!」

キースの号令に兵士達はヤケクソ気味に声を上げて城へ突撃を開始した


キースはその威勢に満足しながらも城攻めの定石に反するこの思いつきな戦闘に一抹の不安を感じていた



先頭の兵士達は片手斧を持って門を破壊しにかかるが城壁からの矢の雨に次々と倒れ伏していく

城壁の上には筋骨隆々とした女傑が指揮をとっており、女傑の弓技だけでも5人は射殺されていた。

キースは腕を組み頭をひねるが妙案など浮かんでくるはずがなかった。有利なポジションを取られ、門は中々破れない。

かくなる上は残る騎兵100騎弱を東に回らせて東門から攻める他ない

これだけの矢が降り注いでいるのだ。奴らは軍の大半を北門に向かわせているのだろう。ならば東門は防備が薄いだろう


「騎馬隊続け!東門を押さえる!」

「「ハッ!」」

しかし、騎馬隊を慌てて東へ動かしたことにより歩兵達は主人が逃げ出したと勘違いして武器を捨てて逃げ出すものが続出し始めた。そこをついて女傑ことナタリーは兵の投降を許し、投降兵を収容して門を閉じた。


キースはそんな事を露も知らずに東へと急いだ

だが、キースは向かった東門でも絶句することになる。

先ほど見た兵士の数とほぼ同数の兵が城壁で矢を構えて待ち受けていたのだ

今度は城壁の上に少年と言ってもいい様な小柄な男が立っており、その男の指示で矢が放たれた。

移動してきたばかりで隊列もままならない騎兵は矢を突然射掛けられた事で大混乱に陥った。騎兵は散り散りとなり、軍としての体裁を保てなくなった彼らは慌てて東へと馬を走らせ出した

その時、城門が内側から開いた

先頭には大剣を担いだ大男がおり不敵な笑みを浮かべて担いだ大剣をこちらへと向けた。途端、城門から騎兵が次々と現れこちらへと突撃を始めた


「く、撤退だ!引くぞ!」

キースは慌てて周囲に残った近習に叫ぶが既に周囲を固めていたはずの騎馬は何処かへと消えたあとだった。そして残った5騎も命令より先に駆け出していた

「お、おい!貴様ら!俺を置いて逃げるのか!?」

キースが自分を置いて逃げていく一団に叫ぶと最後尾を走っていた騎兵がこちらを振り向いた

「申し訳ありませんがここまでです。以降は自身の命を第一とさせていただきます」

そう言い捨てると再び振り返ることはなく駆けて行ってしまった


取り残されたキースは地団駄を踏んでいる間もなく、慌てて北へと向かった

昔、この国を変えようと語らった友のいる場所へと1人逃げていくのであった

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