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第十話 悲運の謀将I

ルカント城の城主であるキース・ウォーデンは執務室の中をぐるぐると回り爪を噛んでは部屋の壁を蹴り付けていた


「クソッ!城主を殺して城を乗っ取る所迄は良かったのに、付近の城が何処も呼応しないのはどう言うことだ!」


彼の目論見としては自身が全てをひっくり返す下剋上の旗頭となるはずだったのだ

それなのに、各地の有力者共は各々が勝手に勢力を作ったことによって小勢力の乱立状況になってしまっている。

このまま勢力の分散が続けば王弟の権力が安定した時に各勢力が順番に潰されて行ってしまう。

向こう10年以内に王権に対抗できる勢力を作ろうとしたのに目先の利益に飛びつく諸勢力に辟易していた。


東で決起した成り上がりのイヴァンとか言うゴロツキはいつでも潰せるから良いとして、南に地盤を持ち騎士爵を持つベートン家は兄弟相剋に忙しそうなのでどちらかに手を貸せば実権は握れるだろう。問題は北に勢力を持つハーピー家の連中だ。豪商が有り余る金で困窮した地方官吏から土地の支配権と城を買い上げたことによって城を3つも持っている上に潤沢な財力を武器にここ3年で勢力を急拡大している


本来なら東のゴロツキと南の分裂したベートン家を吸収しようとしても北の豪商を警戒するあまり動くことができなかったのだ


「せめて奴らに隙でもあれば城の一つくらい掠め取れるのだがなぁ」

彼は椅子に深く座り込んで深くため息を吐いた

そうして唸っていた所、扉が大きな音をたててあいた


「ノックをしろとあれほど言っておろうが!簡単な規律も守れぬ物は死罪とする!」

入って来た兵士はビクッと体を硬直させた後、身を投げ出して土下座をした


「お、お許しを!ですが、有益な情報を行商人から聞きつけまして報告にあがりました!」

その言葉を聞いてキースは片眉をあげる

「ほう?もしもその情報が有益であったならお前の死罪は取り消してやろう」

「ハッ!行商人らによれば北のシーバル城の主力がバータン城との小競り合いのため出陣したとのこと!城は現在手薄なのではないかと思われます!」


キースは言葉を聞き終わるか終わらないかの段階で目を見開いて立ち上がり拳を握りしめた

「でかした!奴らめこのまま北の諸勢力を席巻するつもりだな?我らが背後を突かれることなど頭にないはずだ!すぐに出陣の用意を!」

「ハッ!しかし、東のイヴァンとか言う成り上がり者が我らの不在にせめて来はしないでしょうか?」


キースは不機嫌そうに額に眉を寄せた

「いいか?奴らも我らと同じく周囲に敵を抱えている。我らの城を落としに来ればベートン家に奴らもまた背後を突かれる。つまり奴らは見えない鎖で雁字搦めになっていると言うことだ。我らが素早く城を落とし、帰城すれば何ら問題は起こらぬ」


彼の不機嫌そうな様子に兵士もこれ以上の進言は己の命を対価とすると気がついたのか慌てて頷くと扉を丁寧に閉めて走って行った


「俺にもやっとツキが巡って来たか!この機に元子爵領を全て飲み込んでやる!」

先ほどとは打って変わって体にみなぎる活力の奔流の身を任せ彼は遠征のための準備に邁進するのだった



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