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第四話 いざ行かん

俺たちはその日中に荷物を整えて、父から馬を3頭借りて南へとかけた

馬は貴重品で潰したら一年は給金なしとか言う、交渉とは違う恐ろしい条件も言い渡されはしたが要は馬を大切にすれば良いのだ然程難しくもない


徒歩なら5日かかる距離だが馬を借りられたので2日ほどに旅程を短縮できている。出発が午後2時過ぎだったので何処かの村に泊まるか野宿かは選ばねばならない


父の山賊討伐が功を奏し父の支配域では山賊が極端に少ないので案外野宿もできるのが良いところだ

そうして馬に乗ってしばらくすると段々と陽が沈んでいった

近くに父の支配する村があり立ち寄ると大歓迎され、城で軍議に参加しており不在だった村長の家を貸してもらえたお陰でぐっすりと眠ることができた


そこから村人には別れを告げ、南へと馬を走らせていると大きな城門が見えて来た

「あそこが目的地か?」

俺が問うとハンターは首を横に振った

「あそこは兄であるハーレー殿のオーレンファイド城ですな。私たちが目指すのは西のヒューズ城です」

そこからは山賊をしていて土地勘のあるハンターに案内してもらいヒューズ城へと辿り着いた


「こ、これがさっきの城とやり合おうって考えてる城なのですよね……?」

セシルはヒューズ城の城門を見て絶句していた

まぁ、無理もない先ほどのオーレンファイド城の雄大さと比べてみれば港町を守る城壁の高さは半分で、番兵の装備も向こうが鉄鎧であったのに対してこっちは厚手の皮を継ぎ接ぎにした革鎧だ


「本当にこの城の主人に当家の命運を託して良いのですか?」

流石にハンターもここまで差ができているとは思わなかったのか、かなり渋い顔をしている

「だが、あれだけ差があると兄の方は我らの助力を必要としないだろうからな。どちらにせよ弟の方に接近するしかないさ」

俺は2人に説明する体で自分にも言い聞かせながら城の門へと近づいた


門へと近づくと番兵が前へと歩み出た

「なんの御用かな?身なりからすると承認ではなさそうだが」

俺は落ち着き払って父からの書状を番兵に見せた

「私は北のフルデリ城のイヴァンが嫡子ルイ・キャラハンです。父からの命でノーブル様にお話ししたいことがありまかり越しました」


そう言うと番兵は目を白黒させると傍らの同僚に視線を移した

視線を向けられた番兵は慌てて通用口を通って奥へと消えていった

「し、しばし待たれよ」

そう言うと番兵は書状を俺に返して落ち着かない様子で門の前へと戻っていった


俺たちが手持ち無沙汰に小石を蹴っていると少しして先ほど走っていった番兵が慌てた様子で戻って来た

「ノーブル様がお会いになられるそうです!ご案内いたしますのでこちらへどうぞ!」


「番兵の慌て具合的に当家の協力は喉から手が出るほど欲しそうですね」

セシルが俺の耳元でコソッと囁いてくると俺は前を向きながら少し顎を引いて賛同の意を示した


門をくぐると港町のハツラツとした空気が流れ込んできた。幾ら門が先の物より小さいとはいえ俺たちのきた村よりよっぽどでかい。漁船の他に大型の帆船も桟橋に入っており、財力はうちの何倍あるかは考えたくもなかった


そうして案内された先は館のようになっており流石に館の前には鉄の鎧をきた兵士がいた。鎧の兵士は俺たちを見ると慌てて道を開けて止められることなく館の中に入っていった

館に入ると応接間とやらに案内されて椅子にかけてこの館の主人を待つことになった

俺は椅子に座り二人は椅子の背後で後ろ手に組み控えていた

「それにしても、良い町ですね。民の顔が明るいです」

「あぁ、守る支配域をこうやって城門で守れると発展も早いからな」

セシルと二、三この町の様子について話していると大きな音を立てて扉が開き小太りの男が入って来た


「おぉ!貴殿がイヴァン殿のご子息か!遠路はるばるよう参られた!」

そう言うと小太りの男はどかりと目の前の椅子に腰掛けてニコニコと俺の顔をみた

「それで、本日は何の御用かな?」

彼は背もたれに体を預け、腕を組んでにこやかに俺たちに要件を尋ねて来た

「はい、まずはこちらの当主直筆の書状をご確認ください」

俺の差し出した書状をノーブル殿は目を丸くしながら受け取り、黙って書状に目を走らせた

「なるほど、つまりは当家は次の戦争にて兵を貸す、その代わりに貴殿らは当家のお家騒動に力を貸すと?」

「左様です、あくまで互いに得をする形での盟約をと思います」

俺の言葉にノーブル殿は考え込むようなそぶりをしようとしているが口の端には笑みが浮かんでいる。おそらく兄のハーレー殿の力が圧倒的すぎてこうやって協力を申し出る人がいなかったのだろう

「どうでしょう?お受けいただけますか?」

「うむ、概ね問題ない。ただ、盟約の保証方法といかほどの兵が御所望かによるがな」


たしかに、保証は必須か

「こちらとしては最大動員500人の内から100人お貸しいたそう。保証としては一旦はこの直筆の書状で構わん、起請文としての効果もあろう」

意外と太っ腹だな?何か思うところがあるのか?


「よろしいのですか?我らが何か保証を出した方が良いような気がしますが」

「あー、よいよい。お主らが盟約を破った際はそれを周辺領主に喧伝するだけよ。さすれば貴殿らは2度と他家の協力は得られまい」

その通りだ、俺たちが約束を破ったら二度とどこの領主も俺たちと協力しない。俺たちのような弱小では約束を反故にする方が損が大きい


しかし、兵100人か…。足してこちらは300人敵はおよそ400人弱だから、このままでは兵の数はいまだに劣勢……。どうしたものか…。そう思い俺が顎に手を当てて中空を見つめているとノーブル殿はニコリと笑って言葉を付け足した


「ただし、条件によっては200人お貸ししましょう」

「誠ですか!?」

俺が机を乗り出して彼に顔を近づけると後ろからハンターがゴホンと咳払いをして無言の圧で俺を諌めた

「それはどのような条件で…?」

俺は慌てて席に座り直すとコホンと一つ息をして言い直した


「我が娘とルイ殿の婚約が条件です」

「こ、婚約!?」

「えぇ、当家と貴殿らの関係をより深くするためには必要なことかと。それにルイ殿は14、ウチの娘は今年16。実に素晴らしき縁談ではありませんかな?」


く、この狸め。是が非でもウチの家の協力が欲しいらしい

しかも、女性で16と言えばこの世界では行き遅れまじかと言った年齢だ。18までには実際の結婚はまだでも、婚約者を定めておくのが通例だ。16までに婚約者がいないとなると何か訳ありの可能性もある。ここで首を縦に振って良いかは悩みどころだ

だが、父は出陣の用意を進めている。今から父に伺いを立てて返答をするのに早くとも5日はかかってしまう。ここで決断するしかあるまい


「そうですね。即決できることではございませんので1日ご猶予を頂けましたらと」

「うむ、館の部屋を其方らの近習達と使うが良い」



俺たちは頭を下げて退出し、案内された部屋で一息ついた




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