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第3話 次の配役は聖女候補のようです2

 前世ではよくあるゲーム展開、映画やらアニメでも見られたので思わず質問したのだが、声の主は絶句しているようだった。


(彼もこの世界は美しい。でも残酷でもあるって言っていたから最悪の展開を想像していたのだけど……ドン引きされている!?)

『…………人間は相変わらず物騒な思考をする。安心しろ、そういった趣向じゃない』

「そうですか。それはよかった! 誓約書にもサインしてもらえますか?」

『慎重だな。まあそれで納得するならいいだろう。…………書類は教会に送っておく』

「ありがとうございます」


 シルヴィアはそう答え、左手首の数珠に視線を落とす。やはり白いままで変わらない。嘘偽りを語られたときに数珠の一つが黒く染まるという魔導具は便利だと、内心でほくそ笑む。


 他にも付与術式を組んでいるのを思い出し、心を落ち着かせる。少女たちの何人かは質問の意図に気付き、安堵の色を見せた。


(とりあえず最悪の事態は回避できてよかった。もし|生き残り戦《バトルロイヤル》だとしたら、今ここで全員お亡くなりになってもらうしかなかったし……)


 シルヴィアの思考は極端かもしれないが、それでも自分が生き残る為の線引きはしっかりしおり、独善的であり冷酷だということを本人も理解していた。


『それでは、よりよい選択を――期待している』


 会話は一方的に終了した。

 シルヴィアはすぐさま状況を整理する。


(|第二の人生《セカンドライフ》が早くも想定と違う……のは、この際呑み込むとして、とりあえずはこの国オーリムだっけ? が|フォルトゥナ聖王国《祖国》から見て、どの辺りなのか治安や生活水準、仕事内容を鑑みて問題なければしばらく羽を休める形で住むのは……有りかな。聖女候補の仕事内容が……ネックだけれど。あと聖女になったら面倒そうな気がする……)


 将来の王妃としての礼儀作法や、公務に関わっていた時間は苦痛の何ものでもなかったし、あの窮屈さを対価に贅沢な生活が約束されていても、シルヴィアにはまったく心に響かなかった。


 鳥籠に近い窮屈さに圧死しかけたが、冒険者としての二重生活のおかげで気が狂わずに済んだのだ。学院でも卒業できる単位ギリギリにして、冒険者としての経験値を稼いでいた。


 シルヴィアは公爵令嬢であったが、両親や婚約者からも関心がなかったからこそ、冒険者としての活動ができたと言ってもいい。断罪イベントが刻々と迫る中、精神を摩耗させないための処置だったとも思う。

 公爵令嬢らしくないシルヴィアは、現状のよくわからないけれど、冒険っぽい展開にウキウキしていた。


(それにしてもさっきの声。ラフェドに似ていたような? まさかね)

『おい、お前だけだぞ。さっさと移動しろ』

「ん? ……え」


 空からの声に周囲を見渡すと誰もいない。誰も声をかけてくれなかったことに軽くショックを受けつつも、現実を受け止める。


(同性のお友達……。まあ、うん、悪目立ちしてから……声かけづらいか。学院時代も結局取り巻きぐらいしか近づいてこなかったし、今後の集団生活が不安になってきたかも……)


 そんなことを思いながらも迷宮の門をくぐった。シルヴィアが足を踏み入れた──次の瞬間には、真っ白な転移回廊に出る。ただ迷宮と言っても地下迷宮ダンジョンと違うようで、敵の姿はないようだ。


(ふうっ、魔獣と遭遇する可能性も考えて、肉体強化はしておこう)


 シルヴィアは誰もいないのを確認した後、ステータス画面を開く。

 他国だろうと機能はしっかりしているようで、少し安心する。自分のステータスを確認して、呪いや精神攻撃を受けていないかの確認をしたのち、戦闘服などに着替える。


 服装はドレスだが、動きやすいものを選んでいるので問題ない。靴はヒールから革靴に取り替えるのだが、こういうとき空間金庫アイテムストレージの能力を確保しておいて良かったと心から思う。


『はぁあ? なんであの子、亜空間ポケットを持っているのよ!?』

『神々の加護でしょうか。何とも規格外ですね』

『ちょっと魔王、どこでこの子見つけてきたのよ!』

『教える訳がないだろう』


 まだ声が聞こえてくる。

 周囲に誰もいないはずだが、見られているという視線はバシバシ感じられた。正直鬱陶しいとシルヴィアは眉を寄せるものの、相手側の動向が意図的あるいは偶然聞こえているのか不明だが、情報は大いに越したことはない。

 何せ魔王という単語が聞こえたのだから。


(……にしても、|空間金庫《アイテムストレージ》って、そんなに特殊なのかかしら? 冒険者登録をしてレベルを上げたら、普通に使えるようになったのだけれど。この中にサバイバルしたとしても、一ヶ月分の食料は確保しているしアイテムも潤沢だわ。問題は教会での共同生活よね……。できれば素敵な一軒家で、のんびり一人暮らししたいな。それからこの箱庭には、幻想動物とかいるのかしら? ドラゴンとかグリフィンがいるのなら、乗り物として飼うのもいいかも!)


 よくわからないものに巻き込まれたシルヴィアだったが、スキップするぐらいには楽しくなってきていた。警戒はしているのだが、どこか浮かれてしまうのは、悪役令嬢としての役割を終えたことも大きいだろう。


 今まで準備してきた物が無駄にならず、新たな門出となるのなら足取りも軽くなるものだ。何処までも続く回廊を進んで行くと、時折空間が歪むような画像の荒さに気付く。


(……バグ? それとも仕様?)


 ふと足を止めた刹那、空から声が振り落ちる。


『あーあー、よりにもよってそこを選んだかー。死亡確定じゃん』

(ん?)

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