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第13話 疑念

 見た目が紅葉になってしまった明日乃は、以前にも増して優しく俺へ触れてくれるようになった。


 ベッドの上で俺の頭を撫でてくれる手つき。慰めてくれる時の声音。それから視線。


 明日乃が明日乃だった時、彼女は俺とジッと目を合わせることが苦手だったし、それは好きだからこそのもので、恥ずかしいからだ、とよく主張してた。


 元気付けてくれる時は雑に背中を叩いて、屈託のない笑顔を向けてくれる。


 でも、それがよく考えてみれば今はない。


 どうしてだろう。


 気になる。


 聞いてみたい。


 今は無理だけど。


「はっ……ふっ……んんっ……ちゅっ……はぁ……」


 紅葉と晶のことなんて、もういないものだと思っていい。


 明日乃にそう言われて慰められた翌日。


 学校が終わって、気付けば俺は明日乃の病室内にいた。


 今日一日をどうやって過ごしたのか、その記憶もあまりない。


 ただ、ぼうっとして明日乃のことばかり考え、病室に入るや否や、彼女から手招きされてベッドの上に乗る。


 そして、誘われるがままにキスをしていた。


 長い、長いキス。


 唇が触れるだけのものじゃなかった。


 紅葉の見た目をした明日乃が、俺を誘うように、手を引くように、口内へ舌を入れてくる。


 拒むことはしない。


 彼女を迎え入れ、呼吸が苦しくなっても、俺は明日乃の熱を求めた。


 一秒でも長く明日乃を感じていたい。


 そうでなければ、彼女のことを感じられないと、今の俺は何もかもが崩れ去ってしまうような気がしたから。


 ただ、それは明日乃だって同じだった。


 俺を逃がすまいと、俺の両頬に手を添え、俺を求めてくる。


 何度も、何度も、キスの最中に名前を呼ばれた。


「結賀」と。


 俺も、明日乃がもしも昔みたいに不器用な想いで目の前にいてくれたなら、そのまま彼女の名前を呼んでいたかもしれない。


 昔と同じように、俺と簡単に目を合わせるのを拒んで、恥ずかしさを誤魔化すように俺の背を叩きながら元気付けてくれて、歯を見せながら笑顔を浮かべてくれる。


 そうすれば、俺はきっと明日乃の名前を呼んでいた。


 でも、頭の中に出てきたのは――


「紅葉」


 俺の元から去って行った、もう一人の幼馴染の名前だった。


 目の前の女の子は明日乃はずなのに、見た目も、紅葉のような気がしてならなかったから。






●〇●〇●〇●






『今日も来てくれてありがとう。大好きだから、結賀のこと』


 暗い夜道。


 病院から出た俺は、帰路に着きながら明日乃からのLIMEメッセージに目を通す。


 紅葉のスマホから打ってるんだ。送り主は『紅葉』となっている。違和感が凄い。


 凄いんだけれど……ふと考えると、疑問符が浮かぶ。


 明日乃は今、紅葉のスマホを使ってる。


 でも、それって諸々のロック解除をすべてスルーしてLIMEをしてるってことだ。


 しかも、紅葉にせよ、明日乃にせよ、互いのスマホを触られてて何も思わないんだろうか。


「………………」


 何か嫌な予感がした。


 紅葉と晶に傷付けられた心。それを慰めてくれた明日乃。


 入れ替わった二人。


「…………まさか」


 俺は走り、病院へ戻った。


 ドク、ドク、と強く心臓が跳ね出す。


 もしかしたら、あの二人は……。


 いや、でもそんなことあるわけ――


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