「「イェセガンガンガンガンガンガンガンガンガ~ンッ!」」
冬のクソ寒い朝っぱらにも拘わらず、奴らは盛大にドアを開けて現れた。今回は入場曲まで歌いながらの登場だが、あれは『Yes we can can can――――』と言っていたらしい。
「「はよざ~っす!」」
「梅と!」
「桃の!」
「「梅桃コント~」」
何で祝福される側の人間がコントをやっているのかと突っ込んではいけない。寒いので上半身を起こさずに、首だけ動かして布団の中から視聴させてもらうとしよう。
相変わらず寝癖フィーバーな姉貴は、いきなり床に寝転びモゾモゾ蠢き始めた。
「大物釣るぞ~っ! てりゃっ!」
「ピチャン! ぼくイワシ」
「そりゃっ!」
「チャポン! あたしサンマ」
「うりゃっ!」
「ザバァン! めでたい。タイです」
「おりゃっ!」
「かぷかぷ。クラムボンは笑ったよ。カニだよ」
「どりゃっ!」
「ジャパァン! 俺っち、ブラックバスでい!」
「バスでい」
「「バースデイ! ハイッ!」」
普段なら黙って眺めるだけだが、極寒の中で身体を張った一芸に拍手の一つも贈ってみる。しかし二本目のコントは始まることなく、限界だった妹がベッドに飛び込んできた。
「さぶいっ!」
「うおっ? 冷たっ!」
勢いよくダイブするなり人の布団に潜り込む梅。そのまま左腕に絡みつかれると成長途中の胸が当たるものの、それ以上に極寒で冷やされた肌の冷たさに思わず叫ぶ。
「いや~、今朝は一段と冷えるわね~」
「姉貴も無理やり入って来んな! 定員オーバーだ!」
「大丈夫よ。このベッド三人用だから」
「一人用ですよっ?」
ダブルベッドなら用途もわかるけど、トリプルベッドって使い道ないだろ。し○かちゃんとジャイ○ンをベッドに呼んで、スネちゃまは一体何をする気なんだよ。
強引に俺の上へ半分のしかかりつつ、姉貴がベッドに入ってくる。大きな胸に右肘が押し潰されたが、頭がボンバってる実の姉の姿を見ては興奮もしない。
「そんなことより櫻。お祝いの言葉の一つでも言わなきゃ駄目でしょ?」
「あー。梅、誕生日おめでとう」
「梅おめでとう」
「「うめでとう! ハイッ!」」
「ネタだったのかよっ?」
とりあえず、うめでとうは流行らないし流行らせない……絶対にだ。
俺を挟んで布団の中で謎ポーズを決める二人に溜息を吐きつつ、身動き一つ取れないこの窮屈な状況から脱する方法を考える。ってか声には出さないが正直言って姉貴が重い。
「あ、そうだ。阿久津からプレゼント預かってるぞ。ベッド下の端の方にあるから」
「本当っ? とうっ!」
勢い良く起き上がり布団を跳ね飛ばした梅は、トランポリンみたいにベッドから飛び降りる。一人いなくなったことでスペースが確保され、ようやく重石から解放された。
プレゼントの箱を見つけた妹は丁寧にテープを剥がそうとして失敗。包装を若干破りつつ箱を開けると、そこには緑ではなく青だが姉貴の予想通りスポーツタオルが入っていた。
「恰好いい~っ! 流石はミナちゃん!」
「じゃあここで祝福の桜桃コントを」
「やらねーよ」
「え~? 梅の誕生日くらい櫻も何か面白いことしてよ~」
姉貴から無茶振りをされた俺は、仕方ないなと身体を起こし枕元のガラケーを手に取る。
「喜べ梅。俺の携帯も、お前の誕生日をラップで祝ってくれるそうだ」
「あっ! 桃姉知ってるっ? お兄ちゃんの携帯、凄い面白いんだよっ!」
「何々?」
「行けっ! 相棒っ!(マナーモード解除)」
『……ザザ………………トゥー……ン…………』
「あれ? お兄ちゃん、ターンタターンっていうやつは?」
「ちょ、ちょっと待て!」
ターンタターン誕生日と祝う筈が、変なノイズ入りな上に随分と覇気が無かった。
ついこの前までは何もせずとも五月蠅いくらい叫んでいたのに、久々のマナーモード解除で寝惚けているのだろうか。180度まで回転できる画面を必死に捻るも反応がない。
『バギッ!』
「「「あ」」」
妙な音と共に、画面がぐるりと一回転した。
しかし明らかに崩壊を告げる音だったにも拘わらず、待ち受けは普通に表示されている。
「あらら。壊れちゃった?」
「いや、普通に動かせる……」
「え~っ? 何それっ?」
確かめるようにもう一度捻ってみると、やはり180度という限界を超えて一周した。
液晶は普通に表示されており、操作性もこれといって問題ない。ふとL字に折り曲げたまま画面を握り締めると、操作部をカウボーイみたいにビュンビュンと回す。
「お~っ?」
「櫻っ! 今こそあの必殺技をっ!」
「グ……グロリアスレボリューーーション!」
日本語訳は知らんが適当に叫んだら滅茶苦茶ウケた。やるじゃん相棒。