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三日目(水) 側溝の100円玉は拾う物だった件

「一番事故の多い時間帯だけれど、二人とも気を付けて」

「うん。ありがとう水無月さん」

「……お疲れ」

「ネック! 罰ゲーム忘れるんじゃないわよっ?」

「わかってるっての」

「じ、じゃあまたね夢野さん、櫻君」


 校門を出たところで、阿久津・冬雪・火水木・葵と別れを告げる。四人は電車通学であり、自転車通学なのは俺と夢野だけだった。

 ちなみに罰ゲームというのは、人生ゲームのビリがトップにジュース一本。六人もいるなら大丈夫と高を括っていたが、いざこうなると懐事情が厳しい俺には地味に痛い。


「じゃあ私達も帰ろっか」

「ああ」


 一緒に帰ると言っても自転車の並走は違反のため、俺の後へ夢野が続く形になる。風を切っているため声も聞こえ辛く、信号で止まった時以外は大した会話もしなかった。

 そもそも自転車による下校でロマンを求めるなら、普通は一台を二人乗りするのが定番中の定番。そして今のご時世では、それも当然違反なのは言うまでもない。

 長い長い下り坂をゆっくり下ることもないまま二人で疾走した後、夢野が働くコンビニ前の横断歩道で止まると自転車から降りて財布を用意する。


「櫻君に奢って貰うの、久し振りだからワクワクしちゃうな」

「ああ、幼稚園の時の以来ってか?」

「さあどうでしょう?」


 恍けるような返事をしつつ、少女はペロっと舌を出した。

 信号が赤から青へ変わったため、片手で自転車を押しながら小銭を手に取る。


『チャリン』


「あ」


 100円玉を二枚取り出したが、重なって出てきた三枚目が落ちてしまった。

 そして暗闇の中をコロコロ転がっていった硬貨は、あろうことか側溝へとダイブする。


「…………マジか」


 自転車を一旦止めると携帯を取り出し、カメラを起動してからライトで照らした。

 銀色をした格子の奥へと落ちた100円玉。たまに外れる物もあるため手を掛けてみるが、残念ながらこの蓋は固定されビクともしない。

 世の中何でもそうだが、横着はするものじゃないな。


「米倉君、ちょっと待ってて」

「?」


 溜息を吐いて諦めかけた矢先、夢野はそう言い残すとコンビニの中へ入る。一体どうするつもりか疑問に思っていると、少しして彼女は割り箸とテープを片手に戻ってきた。


「これで取れないかな?」

「サンキュー。やってみる」

「ゴメンね。もっと役立つ物があれば良かったんだけど……」

「これで充分だよ。大助かりだ」


 割った箸をテープで縦に繋げ、一本の長い棒にする。

 そしてその先端へ粘着面が外側になるようテープを貼り付け、側溝内をライトで照らしつつ落ちている硬貨へ接着による救出を試みた。

 …………が、失敗。

 割り箸に貼りつきはしたものの、持ち上げていく途中で100円玉は落ちてしまう。


「あっ! 惜しい!」




『――――あっ! 惜しい――――』




「っ?」

「…………? どうしたの? 米倉君」


 顔を上げた俺と目が合った少女は、不思議そうに首を傾げる。


「いや……前にもこんなことがあった気がして……」

「それってデジャヴ? でも米倉君なら、溝にお金とか落としてそうかも」

「悪かったな」

「ゴメンゴメン。何か他に何か役立ちそうな物がないか、私もう一回見てくるね」


 二度目の挑戦にも苦戦している俺を見て、少女は再びコンビニへ。これがバイト先でもない普通の店とかだったら、相手の迷惑を考えてしまい中々できない行動だ。


「…………」


 夢野の反応を見た限り、演技とかではなく本当に心当たりがない感じだった。

 以前どこかで同じようなことを経験した気がしたが、俺の勘違いだったんだろうか。


「ただいま。どう?」

「絶賛苦戦中」


 器用な人ならこれ一本でも取れるのかもしれないが、俺では到底技術不足だ。

 夢野が持ってきた新たなお助けアイテムは、割り箸とテープに加えスプーン。先程俺がやったのと同じように、少女は長い棒を作ると先端にテープ付きスプーンを付けた。


「これでペタってできないかな? あ、携帯は私が持つよ」

「悪い」


 右手の粘着棒と左手のスプーン棒を、格子状になってる蓋の奥へ。地面に対して垂直に立てたスプーンへ、粘着棒で持ち上げた硬貨をくっつける。


「いけるか……?」

「頑張って!」


 震える両手の棒で100円玉を挟み込んだまま、そのまま慎重に上へ持ち上げていく。

 格子の高さを超えた瞬間、携帯を持っていた夢野が硬貨の下に手を添えてくれた。


「やった!」

「よっしゃ!」


 苦戦した救助作業が無事に終了。二本の棒を置くと、少女から携帯を返される。

 俺達は互いに笑顔を見せると、そのままハイタッチを交わした。


「悪いな。色々用意して貰って」

「ううん、このくらいお安いご用だから。じゃあ米倉君、あと20円くださいな」

「何にするんだ?」

「勿論、米倉君の愛用品!」


 一応聞きはしたものの、やっぱりそうだよな。

 少女と共にコンビニへ入った俺は道具提供に協力してくれた店員にお礼を告げた後で、彼女の希望に応えて桜桃ジュースを奢るのだった。

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