昼下がりの街並みを、色とりどりの衣装を身にまとった行列が練り歩く。
「南高祭でーす! よろしくお願いしまーす!」
学園祭の一日目「前夜祭」は、毎年必ず街頭パレードから始まる。
有志参加だけれど、参加者それぞれが思い思いの衣装に身を包んで、どんちゃん騒ぎながらチラシを配ったり、お店にポスターを張らせて貰うように頼んだりと、体当たりな宣伝活動を行っていく。
学園史的には、そもそもかつて前夜祭なんてものは存在しなかったらしい。
宣伝も担当区画を決めて事前に回っておくというよくある型式だったという話だ。
それが、どこかの代で大々的な街宣を行って、いつしか今のようなパレード型式に変わって行ったという歴史がある。
衣装と言っても様々で、部活や模擬店のユニフォームを着ている清純派(?)な人もいれば、今年の有名人やアニメキャラなんかを模したコスプレをガッツリする猛者も多い。
宣伝もするけれど、最終的には楽しんだもん勝ちってことなんだろう。
こうして並んでみると、制服すら何かのキャラのコスプレみたいに見えてくる。
生徒会は基本的にお目付け役としての参列なので、コスプレする必要はないのだけど……セーラー服なのは私ひとりだけで、他の人は少なくともクラスTに身を包んでいた。
二年生二人組なんかは、揃いのアイドル衣装っぽいのに身を包んで気合十分だ。
確かクラス総出でアイドルのステージやるんだっけ。
MJK24(三八人)とか、そんな感じのチーム名だった気がする。
「こういう感じなら、私も何かコスプレすれば良かったです」
穂波ちゃんが、奇天烈な集団を眺めながらぽつりとつぶやいた。
「するとしたら何するの?」
「遠山の金さんか、暴れん坊将軍がいいですね」
ふんすと鼻息を荒くして答えた彼女に、頭の中で衣装を当てはめてみる。
うーん、申し訳ないけど七五三か、いいとこ白虎隊にしか見えないような気がする。
それはそれでアリなのかもしれないけど。
「アヤセは、今年はしないんだね」
「流石にちょっと忙しくてな。準備する暇が」
「去年何やってたっけ」
「はいからさん」
ああ、大正ロマン風の袴娘か。スマホに写真が残ってた気がするけど、探すのは後にしよう。
「なんだよ、もー。星もアヤセも気合が足りないよー」
いつの間にか、ユリがそばを歩いてぶーたれていた。
「明日からのために自分の体力を鑑みてるの。ところで、あんたのその恰好こそなんなのさ」
「ショロトル」
「なにそれ」
「アステカの神様」
「神様」
ユリの仮装は、なんていうか、すごく言葉で表しづらい。
色とりどりで、ごちゃごちゃで、ひらひらで、そのサンバdeカーニバルって感じ。
てかお腹丸出しだし。
綺麗な腹筋だな。
産毛の処理も完璧だ。
流石はへそ出し名人のチア部。
つるっとしなやかなラインが美しい。
「じゃあやる気の感じられない星にはこれをあげよう」
とか言ってる間に、抵抗する間もなくに頭に何かを装着させられた。
手鏡……はないので、スマホのカメラを内向きにして確認する。
「……って、ホント何これ」
カチューシャはカチューシャだったけど、なんかクジャクみたいなカラフルな羽毛が扇のように開いたパーティカチューシャだった。
「ケツァルコアトル」
「ケツ……なんだって?」
「アステカの神様」
また出たアステカ。
どうした。
最近は赤道ブームなの?
夏だから?
「ショロトルの双子の兄弟なの! ひとりだと寂しいからよろしくね!」
よろしくって言われたって……セーラー服にイロモノカチューシャは、なんか逆に犯罪っぽく見える気がするんだけど。
まあ、ユリが楽しそうならそれでいっか。
制服だけよりも、多少はトータルでコスプレっぽく見えるかもしれない。
『あーあー、テステス。本日は曇天なり。本日は曇天なり』
スピーカーに繋がれたマイクを通して、雲類鷲さんのハスキーな声がこだまする。
最寄り駅まで行って、通りがかりに商店街のお店を襲撃して帰って来るというパレードを終えた後、生徒たちは駐車場の特設ステージに集合していた。
他にも、パレードには参加してなかったけど学校で待ってたらしい生徒たちの姿もある。
『よーし、つうわけで学園祭だ! てめーら、四日後はぶっ倒れてるつもりで、全力でぶちあげてけよ!』
「おうさー!」
威勢のいい返事と一緒に、みんなの拳が一斉に空を打つ。
『んじゃあ、各イベント幹部! それぞれ抱負をよろしくどーぞ』
雲類鷲さんに促されて、後ろに並んでいた実行委員幹部陣が並んで前に出た。
『体育祭実行委員長です! 今年のテーマは闘争です! 殴り愛のうえの美しい友情の景色を皆さんで作っていきましょう! よろしくお願いします!』
「サイコー!」
どんなテーマだ。
救急搬送が必要な事態だけはやめてよね。
『文化祭実行委員長ですよお。今年のテーマはそうですねえ……眠らせない、ですかね。体育祭と一般招待の間の休息日って思ってませんか? ふふふ、どうぞご期待ください』
「サイテー!」
誰かが叫ぶのと一緒にゲラゲラと笑いが溢れた。
琴平さんも反応を満足そうに受け取って、ニヤニヤと笑いながらマイクを雲類鷲さんに手渡す。
『そして、あたしが学園祭実行委員長だ。さっきも言ったが、四日後――月曜日のことなんて考えんなよ。盛り上げて、盛り上げて、盛り上げて……そして死ね!』
「イエーイ!」
『勉強なんてやればできる! 明日に回して今日を勝て!』
「えい、えい、おー!」
生徒一同、一丸になってビリビリと声が響いた。
「相変わらずひどい盛り上げ方……」
「そう言うなって。年に一回だけなんだから」
「二回も三回もあったら、それこそ命が持たないよ」
そう言うと、アヤセも「確かに」と苦笑して肩をすくめた。
『えーっと、あとは……ああ、いたいた』
雲類鷲さんが、壇上から生徒たちを見渡して、やがて私とばったり目が合う。
『狩谷、あがれ! 生徒会長としてひと言!』
「ええ……」
思いっきり「こいよ!」と手を振る彼女に、自分でも分かるくらいに怪訝な表情で後ずさる。
でも、周りにいた誰とも知らない生徒たちに囲まれて、どんと背中を押されてしまった。
そのまま、バケツリレーみたいにどんどん前の方へと押しやられていく。
私は仕方なく、登壇用の脚立を使ってステージに上がった。
『ええと……みなさん、学園祭の準備お疲れ様でした。まだ最終日に向けて準備を進めている人たちも、お疲れ様』
生徒たちの視線を一斉に浴びて、いくらか気後れしながらぽつぽつと言葉を溢す。
今さら特に言うことなんてないんだけどな。
「選挙ん時みたいに一発頼むぜ」
傍らで、雲類鷲さんが耳打ちする。
一発って言われても。
だけど、そういう感じで良いならそれでいくか。
私はマイクを握りしめて、生徒たちひとりひとりの顔を見渡した。
名前を知ってる生徒、知らない生徒。まあ、知らないほうが多いのだけど。
それでも一年間できっと唯一、全校生徒が一丸になる四日間。
そこに生徒会長・狩谷星としてエールを送るなら、たったひと言である。
『最終日まで、存分に私を楽しませてください。以上』
アヤセも、ユリも、心炉も――いや、誰からともなく会場から噴き出したような笑いがこぼれた。
頭にクジャクつけてたら締まらないかもだけど、これで問題ないでしょ――と私は満足しながら雲類鷲さんにマイクを返す。
『てめーら、カイチョー様の機嫌を損ねないように気をつけろよ! ウチの女帝はマジで怖いからな』
「怖くないけど」
『えー、それでは締め御唱和ください! ナンコー、ファイッ!』
「オー!!」
曇天を晴らすかのように声が轟く。
明日の天気予報も今日と同じ曇りだったかな。
体育祭だし、晴天よりは曇ってた方が気候的には良い。
でも、念のためてるてる坊主くらいは、寝る前に吊るしておこう。
どうせやるなら、スッキリ晴れてたほうが気分もいいってものだ。