目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

8月23日 あとふつ……明後日!

 明後日と二日後だったら、明後日って言い方の方がなんだか距離が近いように感じる。

 一週間後と二日後だったら、そんなに差がないようにも感じられるのに。

 もっと言ったら一ヶ月後と一週間後はさらに差がない。

 時間の流れは一定だけど、感じ方は一定じゃないってことだろうか。

 なんか話がズレたような気がする。


 とにもかくにも、学園祭まであと二日。

 準備は佳境を迎えたと言ってもいい。

 この設営が活かされるのは最終日なので、余裕だけで言えばあと五日あるわけだけど。

 実際みんなそのペースで作業しているし、ホントの修羅場は四日後の文化祭の後だろう。


 今日の私の予定はクラスの準備の手伝い。

 バーの設営のこともあるけど、今日はどちらかというと体育祭の作戦会議的なところが大きい。


 教室の中央に固められた机の上には、クラスメイトが持ち寄った自慢(?)の水着たちがところ狭しと並べられていた。

 私が提供した黒のワンピースもある。


「やっぱりビキニで攻めるべきでは?」

「うーん、でも素材の味を生かすならシンプルに素朴なほうが」


 クラスメイトたちは、あーだこーだ首をかしげながら、純朴そうな陸上部の子の身体に水着たちをあてがって議論している。

 陸上部の子は流石に恥ずかしいのか、ほんのり頬を染めながら困ったような笑みを浮かべていた。


「で……結局なんで水着?」

「あれ、カイチョーしらんの? トライアスロン」

「それは知ってるけど」


 私が提案してしまった競技だし。

 でもほんとにやるとは思わなかった。


「トライアスロンって水泳と自転車と長距離走でしょ。そりゃ水着はいるだろうけど、選ぶ必要なんて別にないよね?」

「それが実行委員で協議した結果、流石に死人が出かねないだろうってことになって」


 そう答えてくれたのは、ウチのクラスの体育祭実行委員の子。

 彼女はそのまま黒板の前に躍り出ると、つらつらと競技ルールらしきものを書き連ねる。


「トライアスロン。そのまま言えば三種競技。要するに三番勝負をすればよいわけです」


 うん、いきなり斬新な解釈。


「内容はそんなに変わりません。水泳と、自転車――は流石に機材の都合で準備が出来なさそうなので縄跳びに変更して、最後は長距離走。ただし、それぞれ順位はつけずに各種目の完走に二〇ポイントずつ。距離も手心加えてます。それに加えて芸術点を最大四〇ポイント! ひとり最大一〇〇ポイントを獲得できる競技に生まれ変わったのです!」


 なんか最後の方すごく力が入ってたけど、とりあえず内容自体は多少ぬるくはなったみたい。

 そうだよね。

 会議の時には「三分の一くらいいけるっしょ」とかすごい適当なこと言ってた気がするけど、普通の女子高生なら運動部だってぶっ倒れそうだ。


「芸術点って」

「そのまんまの意味。競技を頑張ってる姿やその美しさなんかを、独断と偏見でポイント付けする……まあ、ようはミスコンです」


 最後思いっきりぶっちゃけたね。

 それっぽい説明するの面倒になったんだね。


 これだけ水着を集めたってことは、おおかた衣装が似合ってるかどうかも加点要素になるんだろう。


「てか、ミスコンなら最終日にもやるのに」

「だってあれ、他校の男子票が集まるタイプが強いじゃない! そうじゃないの! 私たちは、女子にモテるカッコいいモテ女を崇め奉りたいの!」


 体実の子は、拳を握りしめながら力説してくれた。

 学園祭最終日である一般招待日にも、学園祭の伝統的にミスコンは開催される。

 ただこれは来場者投票で決まるので、来場者のうえにさらにミスコンにも興味がある男性票で結果が左右されやすい。

 あと根本的に男子に持てる女子と、女子に持てる女子は、方向性っていうか雰囲気が大きく違うのは私だって女子高生だからよく分かる。


「それなら、むしろ私じゃない方が……」


 陸上部の子が遠慮がちに声をあげた。

 するとクラスメイトたちがものすごい勢いで彼女を取り囲む。


「まずはとにかく完走で六〇点、これをゲットしない手はないでしょ」

「そのうえでの芸術点! 大丈夫、ヒサ子なら頑張ってるで賞でポイント貰える!」

「え、ええ……」


 陸上部の子は、嬉しいような複雑なような、曖昧な笑顔で戸惑っていた。

 確かに、比重を置くなら四〇点の芸術点より六〇点の競技点だ。

 それも完走すれば貰えるというチェックポイント型式ならぜひ貰っておきたい。

 そのうえで流石に芸術点ゼロ点なんてこともないだろうから……と考えれば、完走さえできれば七〇~八〇点は固いわけだ。

 これは団体競技で一着をとった時の点数に等しい。


 あとは各クラスの作戦の問題。

 ギリギリ完走できる実力で芸術点を狙いに行くか、確実に完走できる実力で手堅く望むか。

 美人系で行くか、可愛い系でいくか。


 そういう意味だと彼女はいい線を突いてるかもしれない。

 なんていうか、応援したくなる感じの子だ。


「そういうわけで、カイチョーも気合入れて水着選んだげて」

「まあ、似合うのを探すくらいなら」


 元がちょっと控えめな子なら、素直なワンピースタイプとか。

 ちょっと飾り付きでも良いけど、泳ぐのには邪魔になるかな。

 もしくはギャップを狙って大胆なビキニという手もある。

 本人が恥ずかしいなら、パレオを巻くなり布面積を増やす方法はいくらでもある。


 てかネタなのか何なのか分からないけど、異様に布面積が狭いのが混じってるのは誰のなんだろうか。

 ホントの着てるの、これ。

 何を思って買ったんだろう。

 生きる世界が違いすぎる。


「あ、それはそれとしてカイチョーも応援合戦の衣装合わせしといてね」

「ああ……ホントにやるんだ。てか合わせるような衣装ないでしょ」

「そーね、まあ衣装ってかメイクあわせ? できれば自分で出来たら良いよね」

「覚えても一生使わない気がするけど……」


 体育祭なんて毎年適当に参加してたけど、組の中核になる三年になればそうもいかないらしい。

 クラスの準備がいらないのは間に挟まる文化祭くらいか。

 ほとんどみんな、体育祭の疲れで爆睡してるし……


 何にせよ、学園祭まであと二日。

 いや、追い込むためにもここは〝明後日〟。

 着々とチェック項目が埋まって行く中で、何か忘れてることがないか心配になって来る時間だ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?