「親父……」
「うん?」
「スキありいいいいいっ!」
「父親」の顔面に、「息子」の鉄拳が炸裂した。
「ふむ、いいパンチだ。型にはまっていないところがいい。喧嘩で培ったといったところか」
「なぜよけねえ?」
「よける必要がないからだよ。子どもによりそうのが親なのだろう? よくぞここまで、耐え忍んできたね」
「よくもまあ、ぬけぬけと……てめえが俺をゴミ捨て場に廃棄したんだろうがよ!? いまさら出てきて、父親ヅラなんかすんじゃねえ!」
「まるで青春ドラマのテンプレートのような言い回しだね」
「ぐっ……」
涙もしとどの息子に対し、父親のほうはといえば、おそろしく余裕の表情だ。
「柾樹よ、それよりも何よりも、いまはウツロを救出するのが最優先、そうではないかね?」
「くっ……」
図星すぎる。
ディオティマの手にかかってさらわれてしまったウツロ。
彼をどうにかして救い出さなければならない。
「わたしをぶっ飛ばすのは、そのあとにゆっくりとやればよいではないか」
「手を貸してくれるってのかよ? ウツロを助けるのに」
「そうだよ。ディオティマの考えそうなこと、ウツロの能力を悪用することは目に見えている。それはわれわれ、
南柾樹は思った。
この男は人間を「物」としか見ていない。
腹が立つ、むしずが走る、反吐が出る。
しかし、しかしだ。
ウツロを助け出すためには、ここは怒りを抑えなくてはならない。
俺の性にはまるであってはいないが。
こんなふうに、彼は必死で心を冷静にしようとした。
「腹は決まったかね?」
「憎たらしいことではあるけどよ、いまはあんたの言うとおりにするのが合理的だ。ただし、ウツロを無事に助け出したら、お望みどおりぶん殴らせてもらうぜ?」
「かまわないよ。ただ、勘違いしないでもらいたいのは、これは命令などではなく、協定だということだ」
「協定、だと?」
「そうだ柾樹。君たちチーム・ウツロと、わが龍影会とのね。ふふ、それほどにわたしは、君たちを買っているということさ」
いちいち癇に障る態度に、一同ははらわたが煮えくり返っていた。
「いま、わが組織の者たちが、全力を上げてウツロの拉致された場所を探している。そう時間はかからず見つけられるだろう。情報の共有はつつがなく執り行うと約束する。さしあたってはさくら
「信じろってのか? その言葉をよ」
「わが子に嘘はつかないよ」
「てめえ……!」
「直情的だな、柾樹。しかし、それも悪くない。その気負いをもって、わたしに臨むがいい。それが刀隠の血を受け継ぐ者の、宿命なのだから」
「わけのわからねえことをごちゃごちゃと」
「いまはわかなくともよいさ。少しずつ、少しずつだ。コミュニケーションというものはね」
刀隠は背を向け、来た道を帰っていく。
「ゆくぞ、
「はっ、ははあっ!」
「柾樹、愛してるよ?」
遠くから振るその手を、息子は茫然とながめていた。
「ふふっ」
「か、閣下……!」
刀隠影司の鼻から血が垂れた。
「すばらしい、おまえは最高だ、柾樹。そして今日は、さしずめ人生最良の日であるな。ふふっ、はははっ!」
こうしてさまざまな思惑が交差する中、「ウツロ救出作戦」は開始されたのである。