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第51話 総帥

 遠くのほうで浅倉喜代蔵あさくら きよぞう浅倉卑弥呼あさくら ひみこの兄妹があくびをしている。


「兄さん、ウツロくんがディオティマに拉致られちゃったわけだけど、どうするの?」


「うん、卑弥呼。ここはめんどうなことにならないうちに……」


「とんずらだわね」


「気がつかれないように、そうっとな」


 二人はゆっくりとうしろを振り向いた。


「……」


 ひとりの中年男性が、鋭い目つきで彼らを見つめている。


「かっかっかっ……」


浅倉兄妹はカチカチと歯を鳴らした。


「閣下……!」


 誰あろう、それは秘密結社・龍影会りゅうえいかいの現・総帥、刀隠影司とがくし えいじその人である。


鹿角ろっかくよ、おまえという者がありながら、ウツロをみすみすディオティマに簒奪されるとは、いったい全体どういうことかね?」


「ひ、ひ、ひ……」


 浅倉喜代蔵は小水を少し漏らした。


「なんてね」


「はへ?」


 刀隠影司はつかつかと前方へ歩いていく。


 桜の森につどった一同は、額にゆっくりとナイフを差しこまれるような戦慄を味わった。


 三千院静香さんぜんいん しずからも立ち上がり、苦々しい表情をする。


「諸君、ごきげんよう」


 果てた森花炉之介もり かろのすけの姿も見えるというのに、彼はおそろしく場違いなあいさつをした。


刀隠影司とがくし えいじ……!」


「久しぶりだね、静香?」


 三千院静香は剣を握り、前へ出た。


「やはりみずから出張りましたか、影司」


「当然だろう? こんなに楽しい祭りをやっているのだ。しかもまだ、はじまったばかりのようではないか」


「言葉の選び方には気をつけたほうがよろしいですよ? ただでさえこちらは、神聖なる剣士どうしの戦いを、いともたやすく蹂躙されたばかりなのです。あなたほどの御仁であるならば、それくらい手に取るようにわかるのでは?」


「よく回る舌だね、静香。いっそわたしが引っこ抜いてやろうか?」


 刀隠影司の態度に、百鬼院霊光ひゃっきいん れいこうが剣を抜いた。


「言わせておけば、なんという無礼を――!」


「無礼が」


「ぬ――!?」


 剣尖を拳が握っている。


「なんだって?」


 そのまま手首を返すと、柔の要領で百鬼院霊光も翻り、背中から地面にたたきつけられた。


「霊光さん!」


 三千院静香が駆け寄る。


「あいかわらずの間抜けっぷりだね、霊光。そんなことだから、主人の身もろくに守れないのだよ?」


「ぐ……!」


 一触即発。


 彼もまた、剣のつかに手をかけた。


「それよりも、なによりも」


 しかし刀隠影司は、そんな状況もおかまいなしとばかりに、一気呵成に前へ出た。


 そのまま南柾樹みなみ まさきのところまで行くと、ニコっと笑ってみせる。


「やっと会えたね、柾樹?」


「……」


 わかっていた、一目見たときから。


 知識ではない、細胞が教えるのだ。


 この男が、自分の実の父親であると。


「親父……」


 父子の再会。


 因縁というべきか、宿命というべきか。


 とにかくそれは、ついに果たされたのだ。


 彼は見下げる「父」のまなざしに、たらりと汗を流した。


「どうしたね? 言いたいことがあるだろう?」


「……」


 当たり前である。


 こいつが、この男が。


 父親であるにもかかわらず、俺をよりにもよって、ゴミ捨て場へと廃棄したのだ。


 山のようにある、言いたいことなど。


「親父……」


「うん?」


 南柾樹の両目から、ポロポロと水滴が漏れ出る。


「すきありいいいいいっ――!」


「ごっ――」


 「父親」に顔面に、「息子」の鉄拳が炸裂した。

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