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第50話 ディオティマ乱入 ~ ウツロ拉致

「エロトマニアあっ!」


 姫神壱騎ひめがみ いっきのいる場所から、激しい閃光と爆炎が上がった。


「壱騎さん!」


 ウツロが叫ぶ。


「う……」


 煙が少しずつどけていく。


「森さん……!」


 ああ、森花炉之介もり かろのすけは姫神壱騎をかばい、目を当てることも難しい深手を負っていた。


「ほんの、罪滅ぼしですよ……」


「なんということを……!」


 二人の上空に、巨大なウサギのぬいぐるみに乗っかったバニーハート、そしてそのうしろには、魔女・ディオティマが悠々と立っている。


 彼らはニヤニヤと笑みを浮かべながら、「下界」の様子を観察していた。


「ディオティマあああああっ!」


 ウツロはブチ切れた。


「待て、ウツロ!」


 南柾樹みなみ まさきが制止するも、彼はその手を振り切り、高くジャンプした。


「ディオティマ、よくもっ!」


 さしものウツロとて、状況が状況である。


 彼は怒りのあまり、完全にわれを失っていた。


龍子りょうこ、森さんをお願い! 虎太郎くんはバリアを!」


「ええ!」


「はい!」


 星川雅ほしかわ みやびの冷静かつ的確な指示に、すぐさま真田龍子さなだ りょうこ真田虎太郎さなだ こたろうの姉弟が動く。


 しかしそれを、「彼女」が読んでいないはずがなかった。


「バニーハート、伏せていなさい」


「ぎひっ!」


「ファントム・デバイス!」


 ディオティマの背後から、ギリシャ文字の刻印された大量の「帯」が出現する。


 それらは天空に大きな「輪っか」を形成し、その内部は暗黒の空間へと変じた。


「さあ、みなさん。まとめてわたしのラボまで来ていただきますよ?」


「ぐっ――!」


 ものすごい吸引力に、桜の木々が次々と吸いこまれていく。


 とびかかかったウツロも同様だ。


 彼は完全に、魔女がしかけた「策」にハマってしまったのである。


「イージス!」


 真田虎太郎も負けじと大きな半円状の結界を作る。


「ウツロさん、バリアの外へ出てはいけません!」


「ぐぐ……」


 しかし悲しいかな、ギリギリのところでバリアは、ウツロがいる位置までには届かなかった。


「なんの、エクリプス・セカン!」


 彼は毒虫の戦士の姿に変身し、羽の激しいバタつきでもって、吸いこむ力に対抗しようとする。


 魔女はニヤリと笑った。


「想定内ですよ、それも」


「なにっ!?」


 魔法陣の一部がシュルシュルっと伸び、ウツロの体をたちどころに絡めとってしまった。


「ぐああっ……!」


 ものすごい力で締めあげられ、身動きを取ることすらかなわない。


 ディオティマはキセルのタバコを思いっきりふかした。


「ふふふ、ウツロ・ボーイ、ようやく手に入れることができました。さあ、わたしといっしょに、来てもらいますよ?」


 帯はそのまま彼を内部の空間へと引きこんだ。


「待ちやがれ!」


 南柾樹が咆哮する。


「バニーハート!」


「エロトマニアあっ!」


 ぬいぐるみのグロテスクな両目が、まばゆい閃光を放つ。


 一同はおしなべて目がくらんでしまった。


「ふふふ、全員いただくとは建前。わたしの狙いははなからウツロ・ボーイただひとりです。まあ、時間の問題で、あなたがたもやはりいただきますがね。ふふっ、ふははははは!」


 魔女は高笑いをしながら、しぼんでいく帯の中へと消えていった。


「ああ、ウツロが……」


「なってこった……」


「くそっ!」


 してやられた星川雅と南柾樹、そして万城目日和まきめ ひよりは、奥歯をギリギリと軋らせた。


「森さん、しっかり!」


 いっぽう真田龍子は、アルトラの能力で森花炉之介の治癒を試みる。


「すぐにわたしがパルジファルで――」


「いえ、お嬢さん。わたしはもう、手遅れです。それに……」


 彼は最後の力で何かを伝えようとしている。


「森さん、断じて逝ってはなりません! 光の当たる道をあゆむと、いまさっき俺と約束したばかりではありませんか!?」


 姫神壱騎は涙を噴き出しながら叫んだ。


「いえ、壱騎さん、よいのです……わたしに生きる資格などない。それだけのことを、わたしは、ぐふっ……してしまったのです……」


「森さん! もうしゃべらなくてもいい! しゃべってはなりません!」


君島きみじま雪人ゆきんど……」


「……」


 全盲の剣士は残る力を、すべてふりしぼった。


「わたしやウツロくんの父・似嵐鏡月にがらし きょうげつと並び、雪月花せつげつかというトリオを組んでいた男……その君島が、いままさに、あなたがたを狙っている……!」


 姫神壱騎と真田龍子は愕然とする。


「やつは狡猾にして、残忍な体術家……それに加え、鏡を操るおそるべきアルトラ使いです……ゆめゆめ、油断めさらぬよう……」


 そしてそのときは、ついにやってきた。


「ああ、鏡月……見える、見えるぞ……わたしにも、光、が……」


「……」


 森花炉之介は絶命した。


 しかしその顔は、とても満足しているように映った。


 光を得ようとせんがため、生涯にわたりあがきつづけた男、その最期である。


 彼は得たのか?


 「光」を……


 亡骸のかたわらで、少年と少女はぼんやりとそんなことを考えていた。


 悲しみや怒りよりもむしろ、猛烈なむなしさが彼らを支配した。


 どうして?


 この人はどうして、こんなに苦しまなければならなかったのだ?


 特にも父を殺害された、姫神壱騎の胸中は複雑だった。


「森さん……」


 彼は両手で、抱きかかえている者の体を、力強く抱擁した。

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