「こたびの試合、アルトラの使用を許可いたします」
「……」
「おそれながら静香さま、これは姫神さんとわたしの真剣勝負にございます。しかるにそのご提案、いったいどういう意図にございましょうか?」
「真剣勝負、だからこそです。お二方とも出し惜しみをしていては、大きな禍根が残るのではないかと思案し、この三千院静香、ご提案いたす次第なのです」
遠くで見守っているウツロたちは思った。
三千院静香、剣神と呼ばれる男らしいが、この方は御前試合を文字どおり殺戮のショーにでもする腹なのか?
そんなふうに焦った。
それに
それが何を意味するのか、あの男にわからないはずがないのに……
「俺はかまいません、静香さま。いえ、むしろぜひそうしていただきたく思います」
姫神壱騎は凛として答えた。
「しかしながら姫神さん、わたしの能力は――」
「だからこそです、森さん。俺の父・龍聖はあなたのアルトラによって敗北した。だからこそきっと、これは天が俺に与えた、最大の試練だと思うのです」
まなざしはくもっていない。
その覇気は光を得ない森花炉之介にも伝わった。
「……わたしを倒すことで、父上を乗り越えようと?」
「それも、あるかもしれません……俺とて一個の人間です。父親に勝りたいという欲望は持ちあわせています。しかし、それ以上に……一個の剣士として、さらなる高みに達したいのです。それも欲望と言われればそれまでですが、このわがまま、是が非でも押しとおしたい……!」
「……」
求道者。
三千院静香の脳裏をその単語がよぎった。
この少年は断じて、邪心など持ちあわせてはいない。
言葉どおり純粋な心をもって、強敵に立ち向かいたい。
もののふ、まさに……
龍聖よ、見ているか?
おまえは最高の息子を持ったぞ。
そう思索した。
「心得ました。姫神さんがかまわないというのであれば、わたくしめも」
「気をもませてしまい申し訳ありません。ではお二方、中央へ」
「はっ!」
いよいよ、いよいよはじまるのだ。
会場にあいまみえるすべても者たちが、固唾を飲んで状況を見守った。
「壱騎、心を細くするのですよ? 冷静に」
「母さん、ありがとう」
母・
その懐には短刀を隠しもっていた。
もしものときには、自身も果てる覚悟なのである。
もちろん、それに気がついていない息子ではない。
「壱騎さん、どうか、ご武運を……!」
ウツロたちは強く念じた。
友の勝利を、いや、それは自身に対する勝利であるという意味で。
両者、中央で対峙する。
「いざ尋常に」
「勝負っ――!」
太鼓の音が、桜の森に勢いよくこだました。