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第42話 提案

「森さん、本日はどうか尋常なお立ち合い、よろしくお願い申し上げます」


 白装束に着替えた姫神壱騎ひめがみ いっきは、むしろの上で瞑想をしている森花炉之介もり かろのすけに近づき、語りかけた。


「姫神さん、なんならいますぐ、この場で切り捨ててもかまわないのですよ?」


 全盲の中年剣客の問いかけに、若き剣士はキリっとまなざしを鋭くした。


「それはいたしません。父・姫神龍聖ひめがみ りゅうせいの御霊に唾を吐きかけるような真似だけは、決してしたくないのです」


 クスリ。


 森花炉之介は口角を緩めた。


「はは、やはり確かなもののふ。おそらくは、父上以上の――」


 これ以上は情が移ってしまうかもしれない。


 そう思索した姫神壱騎は、ここであいさつを済ますことにした。


「森さん、決着は本番にて」


「これは、失礼を……」


 やり取りをしている二人のそばへ、見届け人である剣神・三千院静香さんぜんいん しずかが歩みよってくる。


「静香さま」


「ご見聞いたみいる次第にございます」


 姫神壱騎と森花炉之介は、同様にひざをついた。


「二人とも、心の準備はよろしいですか?」


「は」


 やはり同様に、決心がついていることを表明する。


「ならば、お二人に申し伝えたい儀、これあります」


「と、申しますと……?」


 意外な展開に、二人の剣士は何事かといぶかった。


「こたびの試合、アルトラの使用を許可します」


「な……」


 彼らの顔が、深い懐疑の心にくもった。

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