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卵型の外観からこのように名づけられた大型施設の大ホールで、二人の中年男性が会話をしている。
舞台上では公演を控えたオーケストラがゲネプロに励んでいる。
曲目はやはりというか、グスタフ・マーラーの「大地の歌」。
終楽章にさしかかり、アルト歌手がか細い声で歌っている。
「わたしはあなたさまの盟友である
森花炉之介はうつむきながら、消えそうなロウソクの炎のように言った。
三千院静香は少し間を置いてから、そのゆらぎによりそって返答する。
「森さん、あなたのお気持ち、いまのわたしには、どこかわかる部分があるのです」
意外な答えに、森花炉之介は少し顔を動かした。
「お気づきなのでしょう? そう、わたしはもう、それほど長くはないのです」
「静香さま……」
三千院静香は胸もとにそっと手を当てた。
「欲がね、わたしの心を蝕むのです。死にたくないという欲求が。はは、剣神などと呼ばれ、うぬぼれていたバチが当たったのかもしれません」
「そのような、静香さま」
「ですから森さん、あなたがまなこに光が欲しいと事におよんだお気持ち、皮肉にもといっては失礼ですが、いまのわたしには、わかる気がするのですよ」
「……」
重い空気に、森花炉之介は押し黙ってしまった。
三千院静香が配慮して先に語りかける。
「あの男を倒すまでは、死んでも死にきれない……」
「静香さま……」
「いや、言うまい。申し訳ない、私事がすぎました」
「いえ、そのようなことは」
再び沈黙が支配する。
いや、前方で音楽は流れているわけだが。
「しかるに森さん、明日の御前試合、ゆめゆめくもりを払って臨まれますよう。わたしが申し上げたいのは、それだけになります」
「は。この森花炉之介、立ち合いに際しては一個の剣士として出向く所存でございます。もしこの誓いをたがうことなどありましたら、たとえ試合の最中にあっても、容赦なくわたしをご処断ください」
「うむ。その心意気、この三千院静香、確かに承りました」
「では明日、
「くれぐれもご武運を」
こうして森花之介はホールから退席した。
残された三千院静香は、もう少しでこの曲も終わるからと、物思いにふけりながら耳をかたむけている。
音楽は次第に小さくなっていく。
「生は暗く、死もまた暗い、か」
自分はどこへと向かっているのだろうか?
そんなことを思索しながら、剣神とたたえられた男は、思考の深淵をのぞいていた。