「わたしのアルトラ、カリギュラ・システムは、人間の精神を掌握することができる」
「くっ……!」
突然現れた秘密結社・
彼の能力によって、ウツロ以外のメンバーは、おしなべて人形のようにされてしまった。
「さあこの状況、いったいどうするかね? ウツロくん」
「……」
ウツロは焦った。
まるで心の準備ができていなかったこともあるし、精神系というおそるべき力。
心を支配してしまうなんて、まるで無敵ではないのか?
彼は必死で、この場をどう打開すればよいのかを考えた。
「ふふ、必死で考えているね? 言っておくが、わたしは
「
少し前にやはり自分を試した、浅倉喜代蔵のことが頭をよぎった。
しかし今回は、果たして……
「たとえばそう、このまま君の大切な仲間の精神を破壊してしまうことだって、ふふ、できるんだよ?」
「ぐっ……!」
ウツロは歯を食いしばった。
そのような暴虐、決して許してはならない。
なんとしても、みんなを助けなければ……
「いったい、何が目的ですか……?」
彼はシンプルな質問を投げかける。
「さあな。しいて言えば、浅倉と同じだよ。ウツロくん、君という人間に、わたしは興味があるんだ。あろうことかわれらが総帥閣下までもが、ふふ、君のファンなのだからね」
「総帥、が……」
「そう遠くなく、君たちの前へお出ましになるだろう。どうするかね? わたしにも勝てないようでは、肝心要の総帥閣下におよぶことなど、とうていかなうはずもないと思うが?」
「……」
しかしこの状況で、ウツロはといえば――
「……」
笑っていた。
「何がおかしいんだい?」
「いえ、蛮頭寺さん。なんだか、こういう状況に慣れてきているようでして」
「ほう、興味深いな。いったいどういうことか、くわしく教えてくれないかな?」
「アスリートや格闘家が体験するというある種の興奮状態、窮地に陥った状況で脳内から快楽物質が放出されるというものの類かもしれません。あまたの死地を乗り越え、俺の頭もついにおかしくなったようですね」
蛮頭寺善継は葉巻を一服ふかしてから破顔した。
「ははっ、なるほど。君もたいへんな人生だよね。こうも試練が多くてはな。で、どうするかね? 浅倉ならあるいは、このタイミングで君を見逃すのかもしれんが」
「俺をなめないでいただきたい」
「――!?」
茫然と立ち尽くしていた一同が、まさに糸の切れた操り人形よろしく、その場へばたばたと倒れこんだ。
「これは……」
その足もとには、それぞれムカデが這っている。
「ふふっ、なるほど。ムカデの毒で意識を失わせたわけか。ふむ、これなら少なくとも、同士討ちはさけられるな」
「どうしますか右丞相? 次は俺の脳を破壊でもしますか?」
蛮頭寺善継はまた葉巻を一服する。
「いや、わたしのカリギュラ・システムは、その人間の精神状態に激しく依存するんだ。いまの君のように、意志が強く、血の気があまっている者にはかかりづらいのだよ。逆に、油断している者や、頭がからっぽの者ほどかけやすい」
「なるほど。しかし、わざわざご自分の能力の弱点を、他人に教示しても大丈夫なのですか?」
葉巻を灰皿へ押しつける。
「君に対する敬意だよ? ウツロくん。思った以上にやりおるではないか」
「では、この場はしりぞくと?」
「そういうことだね。術はすぐにでも解除しよう」
「逃がすとでも思いますか?」
「ほう?」
「右丞相ともなれば、組織の中でも相当な地位にあると見ます。いま、あなたを始末できれば、ゆくゆくのめんどうごとはさぞ減るのでしょうね」
「はあっはあ! これは傑作だ! このわたしを相手に、よくぞそこまでのたまえたものだね!」
「有言実行……!」
ウツロはゆらりと前方へ動いた。
「ご覚悟!」
飛び上がり、敵の頭上へ向け、回転蹴りを放つ。
「ふん――っ!」
しかしよけられ、首根っこを取られたうえで、リビングの床へとたたきつけられた。
「ぐは――っ!」
「
「ぐう――っ!?」
蛮頭寺善継の体がヘビのようにうねり、たちどころにウツロをからめとってしまう。
「同じく、
寝技をきめられ、完全に身動きが取れない。
「ふふ、ウツロくん。わたしはアルトラに頼るしか能のない、そこいらのヘボとはわけが違うぞ? 甘く見て墓穴を掘ったな」
「ぐぐ……」
「苦しいだろう? このまま君を、ペシャンコにしてやることもできるが?」
「ぐ……なめる、なあっ……!」
あろうことか、ウツロは力技でサブミッションをこじ開けようとした。
「ほほう、見かけによらず、すごい馬力だ。だが――」
「ぐああっ………!」
関節技がますますがっちりときまる。
「ここまでがんばったのは君がはじめてだよ。まったく、あきれたド根性だね」
「ぬぐぐ……」
「いやはや、大した男だ。わたしも気に入ったよ、君のことがね」
「うっ……」
水月にひじを打たれる。
「ぐっ……」
気が遠くなっていく中、蛮頭寺善継は技を解除した。
「
「ま、て……」
「ウツロくん、気を失うまえに言っておくが、そこにいる
「……」
「まあ、君のとっては、関係のないことかもしれんがな」
怒りを覚える余裕などなかった。
彼の意識はどんどん薄くなっていく。
「
大男の背中がかろうじて映っている。
しかしそれはすぐに認識できなくなった。
ウツロは気を失い、深淵の中へと落ちていったのである。