「
体育倉庫の
「なんだ、これは……」
建物内部を
そして手前には、身なりのほつれた
「ウツロ……!?」
彼女はうっかり、
「これは、アルトラ……どういうことだ雅! そのムカデはなんなんだ!? どうして龍子が傷ついている!?」
事情を知らないとはいえ、場違いなウツロの発言に、刀子朱利は気が抜けた。
「ああ、わたしがやったんだよ。真田さんをメチャクチャにして、あなたを
「な……」
なぜそれを……
ウツロは
「真田さんにも言ったんだけどね、わたしたちはあなたたちのことなら、何でも知ってるんだよ? ふふっ、どう? こういうのって、なんかこわくない?」
大ムカデの
「その声、刀子朱利か……アルトラ使いだったとはな……どういうことか、ぜんぶ説明してもらうぞ」
ウツロの
「バカなの? 世界はあんたのために回ってるんじゃないんだよ? 毒虫のウツロ」
自分の情報を
「
「はいはい、落ち着きなさい二人とも。龍子が
星川雅の言うとおりだった。
ウツロはハッとなった。
「すまない、龍子」
「いえ、ウツロ……」
場違いに
「はーあ、なんだか
すっかり
「どうする朱利? まだ遊びたい?」
「あんたこそ雅、とどめは差さなくていいの?」
「わかってるクセに。差せるような状況じゃなくなっちゃったでしょ?」
刀子朱利と同じく、彼女もまた、殺意が静まっていた。
大ムカデはうなだれて、ため息をついた。
「『
「あんただけ得してる気がするけれどね?」
「ふん、言ってなよ」
ムカデの体が
あっという
「さあ、説明してもらおうか、刀子朱利。聴きたいことは山ほどあるんだ」
「あんたの
「おのれ、まだ言うか……!」
再び
「はいはいウツロ。あとでわたしからちゃんと説明するから。とりあえず血の気を収めてよね? もう、疲れるなあ」
「はいわかりましたとでも言うと思ったか」
「ああ、うざ……」
会話が
「ウツロ、わたしからもお願い」
「龍子……」
真田龍子が割って入った。
この段階では、彼女がいちばん、精神的に落ち着いていた。
「とりあえずいまは、雅のいうとおり、みんな冷静になるのが大事だと思うんだ」
「……」
「ね、お願い、ウツロ」
「龍子が、そういうのなら……」
ウツロは内心不服だったが、ほかならぬ龍子が言うならと、
「ああ、クサ、クサ。なんなの、この昭和臭? もう、どうでもよくなっちゃった」
刀子朱利はぶつくさ言いながら、制服についたほこりを落としたり、着こなしを直したりしている。
「朱利、どうする?
「さあ、わたしの気分次第かな?」
星川雅の言葉に、彼女は不敵にほほえんで首をかしげた。
「彼女に感謝するんだね。でも、次はただでは済まさないから。それだけは覚えててね、毒虫のウツロ?」
「……」
ウツロの横をスルーしながら、
ウツロ自身は内心、
「雅、今回は見逃してあげるけど、次はないからね? 今度こそその顔をグシャグシャにしてあげるから、お楽しみに」
「ふん、よく言うよね。ザクロになるのがあなたのほうじゃないことを
背中ごしに飛んできたセリフを、星川雅は
刀子朱利は片手で
「龍子、大丈夫か!?」
「わたしは、ウツロ、平気だから」
「平気なもんか! 早く手当てを!」
恋人を傷つけられ、ウツロの
「それなら保健室でやりましょう。あそこはわたしの『
「また何か
「ああもう、どうしてあなたってそんなに
「なんだと……」
星川雅の提案にも
彼は心の中で
「……わかったよ、行こう龍子。
「わたしはいいからウツロ、雅のほうに……」
「ごめんだ」
「うーん、ははは……」
真田龍子はどうしてよいかわからず、笑ってごまかすしかなかった。
「ウツロ、あなたいつからそんなに
「もちろん『人間論』は現役さ。むしろ高みに達しているよ。だが雅、優先順位は存在するんだ、絶対的に……!」
星川雅はウツロの心がくもっていることを指摘したかったが、彼はまったく
くもらせているのは真田龍子への愛――
星川雅はそれがうっとうしかった。
「さいっ、てえ……」
「なんとでも言え。さあ急ごう、龍子」
「え? ああ、うん……ごめんね、雅……」
「……」
ウツロは真田龍子の手を引いて、さっさとその場をあとにした。
ひとり残された星川雅は、いったい自分は何を守ろうとしていたのかと、ボーっと考えた。
「変な感じで『人間』っぽくなってきたよね、あいつ……」
『
そんなことを
(『第17話 プライド』へ続く)