「
「きな、
これには心理的な揺さぶりをかける効果もあった。
「……」
「消え……」
「……っ!?」
刀子朱利の姿が消えた。
そして次の瞬間、彼女は星川雅の目の前まで間合いを
(
「おらあっ!」
(当て身、
「はっ!」
星川雅の読みどおり、狙いは中段への当て身。
彼女は
「う……」
受け止めた、はずなのに……
胸部から腹部への急所に鈍い重みを感じ、星川雅の体は後ろへ吹き飛んだ。
「雅っ!」
真田龍子が叫んだ。
「くっ……!」
ガードを解いてしまっては刀子朱利の思うつぼだ。
数メートルほどバックしたところで、星川雅はふんばりをきかせ、体勢を整えた。
「
「ふふっ、わたしの
「ふん、調子に乗っちゃって。こんなの痛くもかゆくもないよ?」
「強がるのはよくないね。確かに致命傷じゃないけど、急所へモロに入ったでしょ? あーあ、それ、あとからだんだん効いてくるよ?」
「ああ、うぜえ。あなたに遅れを取ったと思うとね、朱利」
「そんなのんきなこと言ってていいの? ほらほら、早くわたしを倒さないと。勝負が長引けば長引くほど、自分が不利になるのはわかるよね?」
「わざわざありがとう。でもそう言うからには朱利、あなた相当な自信があるんだろうね?」
「あったまえじゃん。昔からあんた、一度でもわたしに勝てたことあった?
「……」
星川雅は必死で耐えた。
ここで感情的になってしまえば、彼女の思うつぼだ。
これもきっと、
「ほらほら、どうしたの? かかってきなよ、雅い」
「……」
星川雅に一つの考えが浮かんだ。
彼女は
「ふん」
刀子朱利はニヤニヤしている。
「雅、お前こそ最強だ。お前こそ支配者だ。お前こそ、帝王だ……!」
強力な自己暗示により、肉体の機能を著しく向上させる技だ。
しかしそれゆえ、使い方を間違えれば、自身を破滅へと導く
「あはは、やっぱり! 使うと思ったよ、それ! あーあ、どんどん自分を追いつめちゃって。ほらほら、早くしないと体がボロボロになっちゃうよ? まあ、わたしはうれしいけどね」
「その減らず口、二度ときけないようにしてやるよ、朱利いっ……!」
星川雅は目にも
「……っ!?」
さすがの刀子朱利も、これには焦りを禁じえなかった。
(くっ、速い……!)
彼女は次々と襲ってくる
だが、弾いても弾いてもキリがない。
鏡地獄によって強化された肉体から繰り出される、体力とスピード。
さしもの刀子朱利も、だんだんと後ろに追いやられていく。
(く、まずい……でも、長くはもたないはず……わたしの
刀子朱利は後ろへ
そのまま背後の壁をステップに、体育倉庫の中を
「逃げてんじゃないよ、朱利っ!」
星川雅も
ひんやりとした倉庫の室内に、バチバチという打撃音がこだまし、次第に空間の熱量も上がってくる。
様子を見守っていた真田龍子も、熱気あまって
(ふふふ。ほーら、だんだん動きが鈍くなってきてる。そろそろだね……)
「ぐ……」
星川雅が一瞬上げたかすかな
「もらったあっ!」
「ぐあっ!?」
「雅っ!」
真田龍子が叫んだ。
刀子朱利はスッと着地すると、うずくまって苦しんでいる星川雅を見下ろした。
「あーあ、ほんと、無様だねー。雅、あんたなんかがわたしに勝てるわけ、ないんだよ?」
刀子朱利は余裕に満ちた
「ぐっ!?」
「あはは、いい気分! ほら、雅、負けを認めなよ?
刀子朱利は
「そうだ、あなたもう、人間なんてやめちゃったら? わたしの奴隷になりなよ。それこそ『ペット』としてかわいがってあげるから。そっちの真田さんと一緒にね。ぷっ、きゃははっ!」
屈辱的な光景だ。
「……」
「ああ、何よ、雅?」
「……あんたのいいなりになるくらいなら、朱利……クソに
星川雅はそう言って笑った。
「てめえ、雅……なら望みどおり、ぶっ殺す……!」
「やめて、刀子さんっ!」
刀子朱利は右足を大きく上げ、勢いよく振り下ろした。
「ぐ、が……」
刀子朱利のボディに、
「なん、で……動け、ない、はず……」
彼女は
「ふう、疲れた。あんたがバカで救われたよ、朱利?」
刀子朱利にはさっぱりわからなかった。
『バッテリー切れ』のこいつに、なぜまだ動く力が残っていたのか?
「鏡地獄をね、かけた
「な……」
「で、バッテリー切れを
「ぐ……」
「あんたは確かに強いけど、昔からオツムが足りないからね。こんな手に引っかかってくれてうれしいよ、朱~利?」
「な、なめやがって、雅……こ、殺してやるううう……!」
「あーあ、
「ぐう、雅いいいいっ! もう、許さないいいいいっ!」
刀子朱利の肌の色が、よどんだ緑色に変色しはじめた。
「な、なに、これは……」
「龍子、下がってて。こいつ、アルトラを出す気よ」
「そんな、それじゃ、
「そう、朱利もアルトラ使いなんだよ。それも、おそろしく凶暴な、ね」
真田龍子と星川雅が会話をしている間にも、刀子朱利の体がどんどん大きくなっていく。
「見せてやるよ、わたしのアルトラ、『デーモン・ペダル』を……!」
刀子朱利の姿が、一匹の巨大な『毒虫』の形になった――
「ふん、正体を現したね。
(『第13話