「うわー……」
女子たちはこぞって、
「あれが
「春の終わりころ、二年部に編入してきたんだって」
「クールイケメンで、ピアノもうまいなんてね」
「
「すごいチートスペックじゃん!」
「あ、でも、いるらしいよ、お相手」
「えーっ、マジでー!?」
「そりゃ、あんな
「女子なの?」
「は?」
「いや、ああいうタイプって、意外にこっちとか」
「うーん、言われてみれば、なきにしもあらず……」
こんな調子で取り巻きたちは、
「うーん、うーむ……」
彼女たちの背中が
真田龍子はやきもきして
「龍子、こっちだよ!」
「
『壁』の上から手が上がって、クラスメイト・
「こっちこっち、早く!」
「わ、わあっ!」
『壁』の中心を
「ひゃあっ!」
驚いている取り巻きたちを
「はい、いっちょあがりー」
「もう、瑞希! はは、すみません……」
白い目を向けられて、真田龍子はしかたなく、
長谷川瑞希は黄色いカチューシャをカリカリといじっている。
彼女はバレー部に所属していて、同じ体育会系の真田龍子とは、
「ったく、
「長谷川さんの言うとおりね」
「あ、
バッハの
「真田さん、この演奏会に遅刻とは、あなたらしくないわね」
「すみません、先輩。わたしったら、そそっかしいから……」
「言い訳なんて聞くたくないわね。聴きたいのは音楽よ?」
「はあ、あはは……」
本人はハイセンスな表現だと思っているのだが、実際はただのダジャレである。
日下部百合香は音楽部の部長で、実質的にこの音楽室の
真田龍子の所属している弁論部にも、
日下部百合香はまたメタルフレームを直すと、真田龍子の視線を『
「ほら、前をごらん。あれを見に来たんでしょう?」
「……」
真田龍子は体を
ウツロ、ウツロだ。
ウツロが、いる。
ピアノを、
ボリュームのある
桜色のネクタイだって、素敵だよ。
ああ、ウツロ……
好き、愛してる……
こんなふうに彼女は、自分の気持ちを
しかしいっぽうで、ウツロが自分以外の存在から注目されることに
どうして?
わたしとウツロは愛しあっているのに……
どうしてわたしだけのものじゃないの……?
ウツロを
わたしとウツロだけがいればいい……
それがかなうなら、こんな世界なんて、いっそ、壊れてしまえばいい……
真田龍子の愛の深さは、そのまま彼女の
それは誰よりも彼女自身が、いちばんよく理解していた。
それでもなお、愛することをやめられない。
やめられるわけがない。
いつかこの気持ちが悪いほうへ向かうのではないかという不安を胸に
そしてそんな真田龍子の心をなだめるように、ピアノの調べはいよいよやさしく、音楽室に
(『第3話