「
なぜそう言い放ったのか、彼にもよくわからない。
しかしウツロは、
魔王桜は
そしてそれをわがもとへ引き寄せ、暗黒の世界を
あとには、さっきまでの桜の森の空間と、七人の人間たちだけが残された。
ウツロは
「父さん、しっかり!」
「……わしを、父と呼んでくれるのか、ウツロ……」
似嵐鏡月は血を吐いて、出血した
「お願いです、父さん! 毒虫でもなんでもいい! 俺は父さんと一緒にいたいんです!」
ウツロは顔をくしゃくしゃにしてそう
「……完全に、わしの負けのようだ……わしは自分に負けた、だがウツロ……お前は、お前というやつは……」
似嵐鏡月はそっと、その手をウツロの頭に置いた。
「
似嵐鏡月がかつて命を奪ったという、悪徳政治家の娘――
その名前が確か、万城目日和だった。
「殺したというのは
彼はなぜ、その少女を生かしておいたというのか。
「わしがあやつを始末しようとしたとき、あやつはこう言い放った」
その技を教えろ、お前を殺すために……!
「わしが死んだと知ったとき、あやつがどんな行動に出るのか、わしにもわからん。わしの代わりにウツロ、お前をつけ
似嵐鏡月は激しく
「父さん!」
「ただ、ひとつだけ言っておこう、ウツロ……お前では、あやつには、勝てん……」
彼はひどく
「ウツロよ、お前は問いかけに解答を見出した……しかしその解答は、やはり問いかけなのだ。お前はその問いかけから、さらに解答を
似嵐鏡月の
「わしは、人間のクズだ……だが、最後に、人間に、近づけた気がする……ウツロ、お前のおかげだ……」
だがウツロは、決してそれを認めたくはなかった。
「なりません、父さん! 死んではなりません! ウツロは父さんと、兄さんと三人で、また暮らすのです!」
似嵐鏡月は体を無理やり動かして、アクタのほうを見た。
「アクタ、わが子よ……
涙もしとどに、わびを入れた。
だがアクタは、満足した顔だ。
「なに、言ってやがる、クソ親父……あんたと、行けるなんて、最高の、気分、だぜ……」
ぼろぼろになった状態で、それでも笑っている。
「はは、お前らしいのう……最後の最後まで、間抜けなセリフを、吐きおって……」
「言ってろよ、人間のクズが……」
アクタは笑顔で、涙を流した。
「ウツロよ、ひとつだけ、言い残すことがある……」
「父」は最後の力で、「息子」に思いを
「よいか、たとえ、お前が愛するものを、傷つけられたとしても……
似嵐鏡月は
「時間だ、ウツロ……お前が
「いやだっ、行かないで! 父さんっ!」
「さらばだ、息子たちよ……」
似嵐鏡月は息を引きとる
「人間とは何か?」という、自身を
自分が
それがあまりに遅かったとしても、外道のまま旅立つよりは、よいのではないか。
それがこの男の、世界を愛するがゆえに世界を
息子たちへの愛を――
「父さん……」
本心など、どうでもいい。
父さんは俺を、認めてくれた。
少なくとも、ウツロはそう、確信していた。
「よかった、ウツロ……」
「アクタ!」
ウツロは今度は「兄」のほうへと
「俺も、先に、行くぜ……クソ親父と、一緒に、見守ってるからよ……」
もう力など出ないはずなのに、アクタは顔を上げて「弟」を見た。
「その人たちなら、大丈夫だ……ウツロ、俺の代わりに、お前を守って……」
「もういい! しゃべるな、アクタ!」
アクタにもまた、最期がやってきた。
彼は
「弟を、頼む……!」
南柾樹は
「もう、なってるだろ……」
「アク、タ……?」
「人間、だぜ……ウツ、ロ……」
アクタは父に続いた――
その顔は、ウツロでさえも初めて見る、穏やかさに満ちあふれていた。
「アクタっ、兄さんっ! いやだ、行かないでくれ! 兄さん、兄さあああああんっ!」
ウツロが絶叫する中、桜の森につどう少年少女たちは、それぞれの思いを、それぞれの胸に宿した。
そして夜は、
(『第80話