「俺が相手だ、
アクタは
当然、
「ああ? アクタ、何だって? いま何か言ったかな?」
「これ以上、ウツロを
アクタはますます
その
しかしそんな純粋な気持ちなど、われを忘れた山犬の耳には届かなかった。
「ああ、お前な、口の
似嵐鏡月はいっこうに折れない。
それどころか、さらに激しく「わが子」を
つらかった、アクタはつらかった。
それでも、俺がやらなければ……
俺はウツロを、弟を守る――
そう、
負けねえ、俺は負けねえ……
絶対に、だ――!
彼の覚悟は
腹は決まった――
「俺はゴミじゃねえ! それにウツロも、毒虫なんかじゃねえ! てめえこそ口の利き方に気をつけろ、このクソ親父が!」
似嵐鏡月はしかし、すっかり
「アクタあ、おやおや、『親』に向かってそんな口を利いて、いますぐ息の根を止められたいのかなあ?」
アクタの勇気もこの男には、まるで
何かわけのわからないことを
その程度にしか映っていないのだ。
どうしてだ、どうしてわかってくれないんだ――
アクタは苦しかった。
だが、負けるか。
ここで負けて、なるものか――
「てめえなんざ『親』じゃねえ。『親』とは認めねえ。俺の『弟』を侮辱するようなやつはな! それに、息の根が止まるのは、てめえのほうだ!」
「あーあ、何も死に急ぐことなど――」
「これでも、食らいやがれ――!」
「なにっ――!?」
アクタは大地を
「目え、
そのまま山犬の腹にタックルを決めた。
「ごおっ!?」
あまりの
「きゃあっ!」
空中に
「させるかよっ!」
山犬の腹をステップ台に、アクタは真田龍子をすくい取り、そのままトンボ
そして気絶している
「あ、ありがとう……アクタ、さん……」
「いいってことよ」
彼女をやさしく地面へ下ろすと、アクタは真田虎太郎をゆっくり
「あの、わたし……」
「ウツロがさんざん世話になったようだ、その、真田さん……ありがとう。『兄』として、礼を言わせてもらう。本当に、ありがとう……」
「あ、そんな……わたしは、何も……」
似嵐鏡月からさんざん
同じ「弟」を持つ者として――
「あんたにも、『弟』がいる。だがあんたは間違っても、『弟を不幸にする存在』なんかじゃあ、ねえ。気休めかもしれねえが、あんたを見てればわかる。どうか弟を、虎太郎くんを守ってやってくれ。それはきっと、あんたにしかできねえことなんだ」
「あ、う……アクタ、さん……」
正直な気持ちからだった。
自分もボロボロになりながら、気づかいを見せてくれる彼に、真田龍子はうれしかった。
「大丈夫。あんたなら絶対、大丈夫だ」
「アクタ、さん……あり、がとう……」
彼だって心をズタズタにされているのに、わたしのことをこんなに案じてくれている。
彼女はその強さにむせび泣いた。
似嵐鏡月は
「ふう……はあ、アホらしい……お
「てめえにゃ、ぜってえ……永遠にわかんねえよ……!」
「……なんか、ついさっきも聞いたようなセリフだな。頭の悪い奴は同じことしか言えんのかあ?」
人の痛みなどわからぬ、「
アクタはそれを決然とにらみ上げた。
「……頭がわりいのは、てめえだろ……」
「
やっと
「……目の前にいるのが、誰か……わからねえのか……てめえの『息子』、だろ……アクタが、どんな気持ちか……考えたこと、あんのか……」
「おやおや、生ゴミの柾樹くん、まだ生きていたのかね? とっくにゴミの
「いいかげん、目え覚ませっつってんだろ……そんなんだからバカにされる……親父にも、姉貴にも……それが何でなのか、てめえこそ『なんじに問え』ってんだ……この、クソ親父が……!」
「まだ言うか
彼にはこの山犬が、なんだか
「へっ……」
「……何がおかしい?」
「弱い犬ほどよく
「きっ、貴様あああああっ!」
アクタたちへの注意を
「待ちな、親父――」
「ああっ?」
「その男に、南柾樹に指一本でも触れてみろ、俺が叩きのめしてやる。そう言ってるんだぜ、親父よ?」
アクタは似嵐鏡月の注意を、逆に自分に引きつけた。
南柾樹の
「おやおや、困ったの。この
「虚勢じゃねえ、俺は本気だぜ?」
南柾樹は不安を禁じえなかった。
アクタは、死ぬ気だ。
やめろ、それだけはやっちゃいけねえ……
「……よせ、アクタ……」
彼はなんとか、それだけは止めなければならない――
そう思った。
「本当に殺すぞ、アクタ?」
「やってみろよ、腰抜けのクソ親父!」
「貴様あっ!」
「やめろ、アクタっ!」
「父」を
だが、アクタの決意は
「マサキっ、ウツロが世話になった! 短けえ間だったが楽しかったぜ! 最高だよ、あんた! だからどうか……どうかウツロを、『弟』を頼む……!」
「アクタっ、よせっ、よせええええっ!」
「俺がこいつを、クソ親父を連れていく! さよさらだ、マサキっ!」
やはり最悪のことを考えている。
なんとしても止めなければ――
しかし彼の体はとても動かせる状態ではなかった。
アクタはもう一度、山犬に向かって高く
「ふん、望みどおりにしてくれるわ!」
似嵐鏡月は向かってくるアクタへ向け、
しかし――
「何っ――!?」
動きを予測していたアクタはその手をすり抜けてステップにし、さらに高く
「ぐうっ――!?」
アクタのたくましい両腕が、似嵐鏡月の首を
チョーク・スリーパーの要領で一気に
「ぬ……ぐぬっ……!?」
その手を振りほどこうと、山犬は手を振り回して
「させねえぜ、これでも食らいな!」
「――っ!?」
アクタはさらに
「うっ……ぐ……ぬう……!?」
アルトラの能力によって凶暴な
さすがの似嵐鏡月も息が苦しくなってきた。
「がが、やめろ……やめんか、ゴミが……!」
「ぐがあ――っ!?」
山犬はアクタの背中にその
だが、放さない。
アクタはその手を、
まだどこかに期待があった。
目を覚ましてくれるのではないかという、期待が――
「……やめろ、アクタ……やめてくれ……」
ウツロが何か言っているな。
もう俺の耳には、よく聞こえない。
でもなウツロ。
お前は、お前だけは生きるんだ。
そしてきっと、幸せになってくれ。
生きろ、生きてくれ、ウツロ――!
「ぐうう……アクタあ……放せえええええ……!」
「……あんたが死んだって、泣いてくれるやつなんか、いやしねえ……! だから俺が、せめて俺が……!」
「ならば、こうしてくれるわあっ!」
「――っ!?」
似嵐鏡月はアクタを
「ぐふうっ――!?」
ああ、アクタは桜の
そのままズルズルと落下し、彼は動かなくなった。
「あ、あっ、アクタあああああっ!」
口の中からナイフが飛び出すような絶叫――
そのナイフはウツロの
「ふん、ゴミが。当然の
「息子」をさんざん痛めつけておいて、似嵐鏡月はハエを
「あ……あ……」
ウツロは顔を両手で押さえながら激しく
いまにも呼吸が不可能になりそうな感覚――
苦しい……
死ぬ、死ぬ……
う……
彼の中で、何かのスイッチが入った――
「ウツロ、落ちつけ……!」
いけない、このままでは危険だ。
鋼鉄の
「ぐ……クソっ……!」
だが、言うことを聞いてくれない。
似嵐鏡月にやられたダメージは、
そのとき――
「あ……が……ああああああああああっ!」
ウツロに異変が
ヘドロのような
そして
「これは、いったい……」
「アルトラよ……」
「
すぐ近くに
「きっと、アクタを傷つけられたショックで……ウツロのアルトラが、発動したんだわ……」
「マジ、かよ……」
南柾樹は言葉を失った。
ウツロは頭を
その間にも全身は
変わり果てていくその姿に、弟を
「ウツロくん……」
ウツロの姿は
(『第69話