「くく、ウツロ……これからわしは、いったい
山犬・
「あああああっ!」
体を
「ああっ、真田さんっ!」
「お
ウツロもアクタも
「ふふ、ウツロ。お前、この女に
「う……」
「こいつをいま、お前の目の前で
「あっ……があああああっ!」
似嵐鏡月はなおも、真田龍子を手の中で
そのたびに彼女の顔は、痛みのあまり
「あはは、楽しいなあ、お前で遊ぶのは。弟を苦しめる邪悪な姉め。その痛みを刻みこんでくれる。ゆっくり、たっぷりとな」
「あ……あ……」
大きな親指に頭をもたげ、いまにも
「や……やめ……もう……」
ウツロとてもう限界だった。
似嵐鏡月からの指摘、真田龍子を愛している――
そうだ、そのとおりだ。
認める、そうなんだ。
俺は彼女を、真田さんを愛しているんだ……
だからこそ、その愛した相手・真田龍子が、このような
もう破れかぶれだ。
このときウツロは理屈ではなく、彼としては珍しく、本能のおもむくままに行動した。
「うっ……うおおおおおっ……!」
「ああん?」
まさしく体当たり――
それをウツロは、自分を呪う「愛する存在」へ向け、
「寄るな、毒虫っ!」
「ぐおっ!?」
しかし突進してきた彼を、山犬はその大きな足で、
ウツロはくるくると回転しながら、地面を転がった。
「ウツロっ! なんてことを、お師匠様……!」
「ふん、『ゴミ』は黙ってろ。お前には何もできん」
アクタの気づかいも、似嵐鏡月はためらわず、はねのけた。
「うっ……ぐっ……ううっ……うううううっ……」
あまりのショックに、ウツロはすっかり打ちひしがれて、その場にうずくまってしまった。
無力だ、あまりにも。
俺には、何もできない。
愛する人が、真田さんが目の前で、苦しみ
助けてもやれない、何もしてやれない。
無力だ、俺は、俺は……
「あはは、楽しいなあ。ウツロ、お前をいじめるのは。自分は無力だ、そう考えているのだろう? そのとおりだな。愛する女のひとりもお前は守れんのだ。あまりにも無力、ああ、悲劇的だなあ」
「う……ぐ……ぐううううう……」
「ふん、苦しいか? 自分の
形容しがたい
こんな仕打ちが果たして許されるのか?
ウツロに地獄の苦しみを与えているのは誰あろう、血のつながった『実の父親』なのだ。
「……お師匠様……もう……おやめください……」
アクタはひたすら制止を試みる。
無理だとわかっていても――
もはや、この狂った山犬を、自分たちを
「黙れと言っておろうが、『ゴミ』め。貴様もウツロと同じ、無力な存在よ。弟が発狂するところを、指でも
「う……」
苦しかった、アクタは苦しかった。
つらい、死ぬほどつらい。
だがそれはウツロだって、いや、ウツロのほうが、ずっとつらいはずだ。
こんなに憎まれて、その存在を否定されて――
俺しかいない、やれるのは俺しかいない。
もう俺しか、ウツロを守れるのは、俺しか――
「う……う……」
「ウツロ、そのかっこう、最高の構図だぞ? 醜い毒虫、おぞましいその存在にふさわしい最期だ、実にな。アクタよ、お前も
アクタの中で、何かが切れた。
こんなやつに?
こんなやつに俺らは?
いや、俺なんかどうでもいい。
ウツロが、俺の弟が、こんな侮辱を受けている……
もう、
俺は守る、ウツロを守る、弟を、守る――!
「ウツロ」
アクタの
「……お前は……何がなんでも……生きろ……!」
ウツロははじめ、言っているその意味がわからなかった。
だが、決然とした
おそろしい、何かとんでもなくおそろしいことが起ころうとしている、その
アクタは
「……俺が相手だ、
(『第68話 兄として――』へ続く)