「
まさにギリシャ神話のひとつ目
「どうだウツロ、
ウツロは心を引き裂かれた。
柾樹、違う……それは、その姿は……お前の心の醜さなんかじゃ、決してない……!
お前が味わってきた……戦ってきた、苦しみそのものなんだ……!
「だけどな、俺はこんな自分と……このおぞましい本性と必死で戦ってきた……! 毒虫がなんだ……! こんな俺に比べりゃあ、かわいいもんだろ……!? だから戦え……お前も戦え、ウツロ……!」
この少年は、南柾樹という男は……こうやって、自分の正体と呼ぶものをあえてさらすことによって、俺を……こんな俺を、助けようとしてくれている……毒虫と
「
南柾樹の覚悟に答えなければと思う反面、逆効果もまたおよぼしていたのだ。
「ははっ! わしも醜いが
「うっせーの! 自分の子をいたぶる親に言われる
「ふん、なんじに
「へっ、そうかもな……だから、だったらなんだよ……? 自分も救えて、そこの二人も救えりゃあ、最高にハッピーじゃねえか……!」
「ふん、何がハッピーだ。しょせん貴様も虫ケラよ。ほら、かかってこんのか? 腰抜けが!」
「上等だよ、この
南柾樹はその
「ぐ、ぬう……!」
似嵐鏡月は巨人の攻撃を受け止めたが、その圧倒的なパワーに
山犬の大きな両足がジワジワと固い地面を
「柾樹が
「いける、いけるわ……!」
「へっ、このままペシャンコにしてやるぜ!」
「ぬう……なめる……なああああああ……!」
「うっ……!」
似嵐鏡月は
「柾樹くん、今日は生ゴミの回収日だよ?」
「な……」
「ほらほら、後ろを見てごらん。ゴミ
「う……」
この
その内容はとてつもなく
しかし彼には、南柾樹には思いがけないダメージとなった。
ゴミ、生ゴミ――
周囲からはいつも、そう
彼は何も、何も持っていなかった。
生きるためにケンカし、盗み、変質者の相手だってやった。
自分はいったい、何のために生まれてきたのか?
チンピラの
変態の肉便器としてか?
呪われている……
自分の存在は、間違っている……
ずっとそう、思ってきた。
次々とよみがえってくるトラウマ。
苦しい、苦しい……
こうなってはもう、似嵐鏡月の
彼の体から
「う……う……」
「ふん、勝負あったな、南柾樹……!」
ここぞとばかりに山犬は、巨人の体を逆に押し返していく。
この光景を目撃していちばん耐えられなかったのは、誰あろう、ウツロだ。
自分の苦しみを
いったいどれほどの苦しみだったというのか?
やめてくれ、もう、やめてくれ……
「柾樹っ、もういい! もうやめてくれ! お師匠様も、どうかおやめください! 彼を、柾樹を……傷つけるのは、おやめください……!」
同情かもしれない、偽善なのかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいい。
過去の
ウツロにはそれを
「ふん、ウツロ、こんなやつに
山犬・鏡月は
「弱者でけっこうだよ……! だけどな、弱者で何が悪い!? 似嵐鏡月……てめえみてえに、自分が弱者だってことにすら気づかねえ……そんな救えねえバカに比べりゃ、ずっとマシだよ!」
「何をまあ、
「てめえにゃ、ぜってえ……永遠にわかんねえよ……!」
「ぬ、ぐう……!」
ウツロの気持ちは確かに届いた――
南柾樹は心を傷つけられながらも、負けてなるものかと山犬に力をかけた。
それはウツロとアクタのためであり、それにも増して自分のためだった。
似嵐鏡月の言うとおり、それはわかっている。
だからなんだ?
存在証明だって?
何が悪い?
もう考えるのは
俺は俺のやりたいようにやる。
こうしたいと、これでいいと思ったことをやる……!
彼の気持ちはもう
「柾樹っ、
星川雅はアルトラ「ゴーゴン・ヘッド」の髪の毛をしゅるしゅると伸ばして、山犬の首を、
「ぬっ、雅……!? 貴様あああああっ!」
柾樹と雅の
「おらっ! アクタとウツロにわびを入れな! てめえの子の人生を
「あ、ぐ……誰、がああああああっ!」
そのとき似嵐鏡月は、その
桜の森の入り口、
突然動きを止めた山犬に、南柾樹もそちらに顔を向ける。
それにつられて、ほかの
そこには
鼻穴は開き、口は
降ろした両手の
「
「姉」はむせ返るように、言葉を
(『第65話