第57話 テオドラキア
「『実験』に先駆けて、わしとグレコマンドラの娘・テオドラキアの、奇妙な共同生活が始まった」
―― キョウゲツ、いっしょに遊びましょう! ここには何でもある、ママは何だって用意してくれるんだよ!? ――
「米国防総省の地下深くに、その実験施設はあった。事の決行が一週間後に迫る中、わしより少し年上……ちょうどあの皐月姉と同い年くらいの無邪気なその子は、母が進めている得体の知れない『実験』のことなどまるで知りもしないように、わしに遊び相手をせがんだ」
―― ママはね、わたしにすごい力をプレゼントしてくれるんだって! きゃはは、楽しみだなー! その無敵の力で、わたしはママのこと、絶対に守ってあげるんだー! ――
「無機質な冷たい施設の中にあって、彼女の、テオドラキアの無垢な笑顔には、癒やされたよ。だが、わしは気がかりでしかたがなかった。グレコマンドラはいったい、この天使のような少女に、何をしようとしているのか、とな。同時にそれは、わしに対しても、ということになるが……そもそもなぜ、わしだったのか……なぜ、あまたいる人間の中で、わしが選ばれたのか……それを問い正しても、あの『魔女』はひたすらお茶を濁すだけだった。そして実験が開始される直前、わしはグレコマンドラの口から、異界の王だという、魔王桜の秘密を聞かされた――」
(『第58話 魔王桜の秘密』へ続く)