<作者から>
今回は残酷描写が特に強めになっております。
最大限配慮いたしましたが、閲覧に際しじゅうぶんにご留意ください。
※
似嵐鏡月が何かの気配を感じて目を覚ましたのは、日が変わった深夜一時を過ぎたころだった。
「なんだろう……?」
屋敷を囲む杉林のさらに奥、竹林へとつながる道の辺りだろうか?
あそこにはアクタの住む小屋がある。
何か、胸騒ぎがする……
彼は布団から起き上がり、その場所へと急いだ――
*
アクタの住む小屋へ着くと、中から何かの音が漏れ聞こえてくる。
それは人間の呻く声だった。
やはり、何かある――
似嵐鏡月は気配を殺して近づき、小屋の格子窓から、中の様子をうかがった。
「……!」
アクタだった。
そして似嵐家を守るお庭番の中でも、屈強の者たちが数名。
そう、アクタは一方的に辱めを受けていたのだ。
その残酷な光景に、彼は気の触れそうな怒りを覚えた。
八つ裂きにしてやる――
そう思った、が。
「遅かったねえ、鏡月」
声のほうへ振り向くと、そこには姉・皐月が、ヘラヘラ笑いながら立っていた。
「姉さん、どういうことだ……!?」
「あんたのためやん。あの汚らしいメス豚が、あんたのことをたらし込んでたんやろ? まったく、お父様から受けた大恩も忘れてからに。ほんに芥、ゴミやねえ」
「きっ、貴様あああああっ……!」
実の姉だろうが関係ない。
いますぐこの女を殺してやる――
しかし次の瞬間、似嵐皐月は思いもかけない物を、弟の前に差し出した。
「そ、それは……」
びっくりして彼の血の気が引いた。
宝物庫で厳重に保管されているはずのあれが、なぜここに……
「そう、似嵐家の宝刀・黒彼岸や。お父様の言いつけで借りてきたんやで? 鏡月、こいつであのアクタの頭を、砕くんや」
「な……」
「それができたなら、お前を似嵐の当主として認めたる、それがお父様の意志や」
「そ、そんなこと……」
「わかっとる思うけど、それほどの覚悟があるならゆう意味やで? さあ、はよしい」
「う……」
*
似嵐鏡月が小屋へ足を踏み入れたとき、アクタはすでに虫の息だった。
うつろな目は焦点が定まらず、彼のことを認識できているのかすら、わからないような状態だった。
「さあ、鏡月。ひとおもいにカチ割るんや」
「あ……あ……」
こんなことが許されるんだろうか?
こんなこと、人間にできることじゃない……
悪鬼、鬼畜、外道の所業だ。
人間じゃない、人間じゃ……
「ほれ、はよしいなあ」
人間だと?
こんなことをするものが?
そんな存在が人間であるならば、人間なんていらない……
人間の存在は、間違っている……
人間は、駆逐しなければならない……
「……う」
「ああ、なんやて? 鏡げ――」
「うわああああああああああっ――!」
正気を失った似嵐鏡月は、お庭番たちを皆殺しにし、黒彼岸とアクタを抱きしめ、その場から逃走した。
(『第54話 姉と弟』へ続く)