「
「
「雅……」
気づかう
「友達ぶって、いい人のフリしやがって」
「雅、わたし、そんなつもりは……」
「ほら、それだよ。善人ぶってさ、吐き気がする!」
立て続けに呪いの言葉を吐く。
「何か言ってみろよ、豚女」
真田龍子は、なんとかして星川雅の心を開きたいと思った。
そのためには、まずこちらの心を開く必要がある――
彼女はそう、決心した。
「
「……は?」
「わたしは雅の『豚』でかまわないよ」
「……なに、言ってんの……?」
「雅の他人を支配したいという気持ち、わたしが受け止める。だからわたしは、雅の豚でかまわない」
「なに、それ……聖人みたいなこと言わないでよ。わかってるんでしょ? わたしがあんたに何をしてるのか?」
「ええ」
「なら、なんで……」
「もし雅が、誰も支配できないって苦しんでいるのなら、わたしだけは支配していい。そういうことだよ」
「何を、言ってるのか……意味わかんねーよ……」
「少なくともわたしだけは、雅の支配対象でいいってこと」
「そんなこと言って、ポイント稼いで、ウツロをわたしから取ろうってんでしょ?」
「もちろん、わたしはウツロくんを愛してる」
「ははっ、ほら、やっぱりじゃん。結局そこなんじゃない」
「いえ、違う」
「何が違うんだよ?」
「わたしはウツロくんを愛してる。でもそれは、ウツロくんを愛することで、ウツロくんを救い、わたし自身も救うって意味なんだ。そして雅、それとは別に、わたしはあなたに支配されることで、あなたも救いたい。それはあなたを救うことで、わたしも救われるということ」
「トンチ問答かよ。それってすごい、わがままじゃん?」
「わかってる。わがままなのは、わかってる。でもわたしは、ウツロくんも救いたいし、雅のことも救いたい」
「
「偽善でいい。わたしだけでも支配することで、雅、あなたが救われるのなら」
「……ああ、そうかよ……」
「――!?」
星川雅は髪の毛で、真田龍子を
「このままズタズタにすることもできるんだよ?」
「いいよ。それで雅が、救われるのなら」
「……なめやがって」
「――!」
そのまま一気に
「どうよ? これでもまだ、同じことが言えんのかよ?」
「かまわない……わたしが、ウツロくんを、愛している、事実は、変わらないから……」
「――!?」
星川雅は
真田龍子を殺せば、彼女のウツロへの愛は、永遠に封印される。
かといって、生かしておいても同じだ。
どちらに転んでも、二人は愛し合う。
ジレンマ――
自分とは関係なく、ウツロと真田龍子は愛し合う。
そのジレンマに、彼女は何もできなくなった。
「……ずるいよ、龍子……」
真田龍子を縛る髪の毛が
耐えられなくなって、星川雅はまた、涙を流した。
「ごめん雅、わがまま言っちゃって。でも、これだけは許してほしいんだ。それ以外なら、なんでも好きにしていいから」
「生意気……必ず、豚にしてやるんだから……」
「楽しみにしてるよ? わたしの『ご主人様』?」
「うるさい、豚女……」
「帝王になるのも、楽じゃないよね」
星川雅の顔が、いや、心が
真田龍子がその能力を使ったわけではない。
彼女はアルトラなしで、「親友」の心を開いたのだ。
それは見せかけの同情などではなく、彼女が友に対して、純粋なあわれみを向けたからにほかならない。
真田龍子の
「なんか、あっちのほうもうまくいったみてえだな。ひやひやしたけどよ」
「ウツロが見守ろうっていうから、おとなしくはしてたがな。マジで危なかったぜ」
「俺は、信じてたから。真田さんを、そして、雅を。
「ほんと、
「そこがお前のいいとこだけどな」
ウツロの判断を、アクタと南柾樹は
信じるという
それをウツロはやってのけたのだ。
しかしたとえ結果がどう転ぼうとも、誰もウツロを
それもやはり、二人がウツロを信じていたからにほかならない。
三人にはこのとき、奇妙な結束力が生まれていた。
やはり曖昧なものであって、証明など不可能であるが、小さな、しかし確かな信頼の力だった。
「ふふ、ふふふ」
「――!?」
いつの
そして
「面白かったぞ、お前たち。信じる力か、そんなことが人間には可能なのだな。まったく、
「お師匠様っ!」
「あら、
「おい、おっさん! この落とし前は、ちゃーんとつけてもらうぜ?」
ウツロとアクタ、そして星川雅と南柾樹は、
しかし彼自身はまったく、
「さえずるな、ガキども。雅、まさか
思わぬセリフを口にしたことに、
「わしもなんだよ。わしも出会ったことがあるのだ、魔王桜に。すなわち、わしもアルトラ使いなのだよ。つまりどうやら、アクタを
ウツロたちは
「アルトラにはアルトラで。見せてやろう」
「これがわしの、ブラック・ドッグだ……!」
みるみるうちに似嵐鏡月の体が、山のように
(『第51話 ブラック・ドッグ』へ続く)