「叔父様、似嵐の家名を汚した罪で、処刑いたします」
「面白かったぞ、雅。アクタとウツロをすっかり骨抜きにしたな。あの腑抜けたツラ、見てられんわ」
「同じ穴のムジナでしょ、叔父様? 人間を玩具にするという点においてね」
「ほざけ雅。ミイラ取りをミイラに。お前もわしの玩具になってもらうぞ。今度こそバラバラに切り刻んでその肉片を傀儡仕掛けにし、姉貴の前で人形劇としゃれこむのだ」
「ああ、やだやだ、下劣な男。わたしをそんな目で見ないでくれる?」
「ふん、悪女が。そうだ、どうせなら後ろの役立たずとまとめて檻の中へ放り込み、見世物にするというのはどうかな? わしは見物料をたんまりせしめて、お前たちは一緒に気持ちよくなれる。一石四鳥じゃないか?」
「汚らわしい……ぶち殺す……!」
「ふん、本性を現しおったな。やってみろ」
対の大刀を、星川雅は突きだすように構えた。
「わたしの二竪で、あの世へ送ってあげるよ」
その目は爛々と殺意に輝いている。
「なるほど、二竪か。姉貴の両面宿儺を小型にしたレプリカだな? 母の真似事では、わしは倒せんぞ?」
「レプリカじゃないし。それに、真似事かどうか、試してみなよ――!」
星川雅は強く、大地を蹴った。
「――っ!?」
早い――
中空でくるっと横に回転しながら、右の刀を袈裟に振り下ろす。
似嵐鏡月はその攻撃を黒彼岸で止めた。
少女とは思えない重さ、そして――
「ぬっ――!?」
間髪置かずにさらに回転し、今度は左の刀の攻撃がくる。
「くっ――!」
似嵐鏡月はかろうじてそれを弾き返した。
星川雅はくるっと蜻蛉返りをして、じゅうぶんな間合いを保った位置に着地する。
「なるほどな。片方の刀で注意を引き、その隙にもう片方で攻撃する。理にかなった戦法だ。やるじゃないか、雅」
「うふ、右が阿呼で、左が吽多っていうんだ。叔父様の血を欲しがってるよ? このままあなたを切り刻んであげる」
「ふん、偉そうに。お前の母が編み出したやり方ではないか。しょせんは劣化コピーではないのか? あーん、雅?」
「なめやがって、ぶっ殺す……!」
桜の森の間隙をぬって、二つの影が激しくぶつかり合う。
斬撃につぐ斬撃の応酬――
虚空の静寂を蹂躙して、鋼鉄どうしがこすれる音と、生じる火花が咲き乱れる。
森の桜よりもなお、美しいような――
「ふん、なかなか楽しませてくれる。アクタやウツロなどよりよっぽど使いよるな、雅?」
「あは、まーね。教える人のレベルが違うから、ね?」
「ふん、いちいち生意気な娘だ。姉貴を見ているようで怖気が走るわ」
「あなただって吐き気を催すおぞましさだよ? 毒虫の鏡月?」
「おのれ、まだ言うか――!」
黒彼岸の鈍い一撃を、星川雅は受け止めた。
そのまま体をひねって回転し、また間合いを取る。
「叔父様、こんなのはどう?」
(『第44話 絶技』へ続く)