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第13話 タイガー&ドラゴン

 気絶したウツロは、再び悪夢にうなされていた。


 似嵐鏡月にがらし きょうげつとアクタが、遠くのほうに並んで、こちらを見つめている。


 彼らはどこか悲しそうな視線を送っていた。


「お師匠様、アクタっ!」


 ウツロが呼びかけると、二人はくるっと背を向け、去りはじめる。


「なん、で……」


 ゆっくりとした動きのはずなのに、彼らはどんどん遠ざかっていく。


「お師匠様、アクタっ! 行かないで!」


 二人の姿はとうとう、豆粒のように小さくなってしまった。


「どうして……お師匠様……アクタ……」


 ウツロは彼らを必死に追いかけているつもりなのに、その距離は限りなく広がっていく。


「俺を……ひとりに、しないで……」


 二つの影はついに消えてしまった。


「なんで……なんで……」


   *


「お」


虎太郎こたろう?」


「姉さん、目を覚まされました」


 落涙らくるいとともにウツロが目を覚ましたとき、かたわらには真田虎太郎さなだ こたろうがよりそっていて、すぐさま姉・龍子りょうこにその事実を報告した。


 もっとも、すぐ報告できるよう、ずっと彼によりそっていたのだけれど。


「ん……」


「大丈夫? ウツロくん」


「うん……」


「さっきはごめんね。勢いとはいえ、柾樹まさきみやびがひどいことをしてしまって……」


「いや、謝るのは俺のほうだよ。ごめん、あんなふうにあばれてしまって」


「あ、いえ……」


 ウツロの気づかいに、真田龍子さなだ りょうこは彼のやさしさを感じた。


 その上でなんとか彼の気をまぎらわそうと、をなごませることを考えた。


「改めて紹介するね。わたしは真田龍子。『りょう』は『龍』、『ドラゴン』の『龍』だね。変わった書き方でしょ? で、弟の虎太郎だよ。『こ』は『虎』、『タイガー』の『虎』だね。龍と虎の姉弟きょうだいなんだ。ちょっと面白くない?」


 彼女はウツロを元気づけるため、少しおどけた調子で自己紹介をしてみせた。


「『タイガー』の虎太郎です。ウツロさん、よろしくお願いします」


 真田虎太郎のほうも、姉の意思をくみ取り、流れに乗ってみせる。


「うん、なんだか素敵だね……」


 ウツロは彼女たちの気づかいを理解してはいたものの、どこかぎこちない返しをしてしまい、不器用な自分をもどかしく思った。


「ごめん、二人とも気を使ってくれているのに……」


「いや、いいんだよ。こっちこそ、ちょっとおせっかいだったね……」


 真田龍子はまた言葉に詰まってしまった。


 真田虎太郎も同様に萎縮いしゅくしてしまっている。


 ウツロは気まずくなり、何か話を切りだして、雰囲気を変えようと思った。


「さっきの男……南柾樹みなみ まさきだっけ? なんだか、俺と同じ感じがしたんだ……」


 真田龍子は息をのんだ。


 彼はまた、何かとんでもないことを言おうとしているのではないか?


「俺が何者なのか、伝えておきたいんだけど……その、話してもいいかな?」


 やはりと彼女は思った。


 そんなことをしたら、この子はさらに苦しむのではないのか?


 せめてこの場はやりすごさなければ……


「ウツロくん、とても傷ついていると思うし……あ、無理して話さなくたっていいんだよ……?」


「いや、さっきあんなことをしてしまったし……誤解があったら、いろいろ困ると思うんだ……」


「あ、うん……ほんとに、いいの……?」


「聴いてほしいんだ……俺はいったい何者で、どこから来たのかを……」


 真田姉弟はお互いに視線を合わせて確認し、黙ったままうなずいた。


(『第14話 |慟哭《どうこく》』へ続く)

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