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第23話・火星先史文明と、アンタッチャブル

 グラハム・マックバーンによる火星採掘計画。


 その第一歩である無人探査機の火星設置、それが今、地球へ向けて大体的に公表された。

 FSI(フロンティアスペース・インダストリー)による採掘計画地点での試掘開始、その光景がライブ映像で地球へ送信。

 当然ながらグラハム本人も、新たに設計した新型宇宙服を付けて火星表面に立ち、無人探査機横に設置された大型試掘機器のスイッチを入れたのである。

 宇宙空間ゆえに音は響かないものの、高速で微振動を繰り返しつつ、地中へ向けてボーリングを開始した大型試掘機の映像は、地球圏で宇宙開発を生業としている企業団体にとっては興味の的であり、そして羨望の対象となっていた。


 この映像が流れた直後、アメリカのFSI事務局には大量の問い合わせが殺到、一時期は通信回線がパンクする事態にまで発展。

 だが、そんなことは知らないグラハムは、のんびりと火星の散歩を繰り返したり、八雲の製造した六輪装甲車の外装に触れ、記念撮影などを行っている。


 この映像が流れた時点で、地球圏の人々にとっては【火星は風祭八雲の所有物だが、マックバーン財団を通さなくては話が進まない】という認識が浸透。

 八雲の存在が徐々にマックバーン財団に塗り替えられ始めたのである。

 もっとも、それもグラハムの計画であり、八雲にはこの火星で、好き勝手に生きていてもらおうと考えていたのである。


 その好き勝手に生きている八雲はというと、ちょうど完成したばかりの【小型潜水艦型・調査艇】に乗り込み、カルナヴォドス渓谷と名付けた地点の最下層に噴出した水源から、地下水脈を通じて調査へと向かっていったのである。


 〇 〇 〇 〇 〇


――地下水脈

 火星の重力が弱いためなのか、水源は急激な流れなど全くなく、ただその場に水が揺蕩っている感じに見えている。

 ゆえに調査船を操縦している八雲でも、現在は上流へ向かっているのか下流へ下っているのか、まったくわかっていない。


「……うん、渓谷から地下水脈に潜って1時間ってところか。水の色はやや赤茶色、鉄分というよりも地表の砂礫が水に浮かんでいる感じ……なのかなぁ」


 物は試しにと、外部に揺蕩う地下水に鑑定を行ってみると。

 やはり予想通りの結論に達してしまう。


「ふぅん……酸化鉄が多量に含まれているのと……おっと」


――ゴウッ!!

 調査艇が大きく揺れる。

 これは地下水脈に漂っているらしい氷塊が船体にぶつかる振動であり、まだ溶け切っていない氷塊が大量に漂っているということが分かった。

 そもそも、地球が発見した火星の地下に存在する水源は巨大な氷塊の形であり、このように液状化した存在ではない。これも当初は氷塊であったらしく、カルナヴォドス発進後、その船底より地下の部分から氷塊が大量に発見され、それが溶け始めて水源へと変化したのである。


「ふぅ、氷塊程度で調査艇の装甲は傷つくこともないけれど……注意はしないとなぁ。フラット、まだカメラでそれらしいものは発見できないの?」


 縦長のコクピット前方で、センサーと船体搭載カメラを操作しつつ、幾つものモニターを確認しているフラット。

 残念ながら、現在までは先史文明らしき遺跡群は確認できていない。


『はい。ただ、現在地点が最深度地点かと思われます。ゆっくりと着地します』

「おっけー」


 あっさりと許可を出した八雲。

 その直後、ほんの僅かだけ船体が揺らぎ湖底に着地したのを確認。

 すぐさまフラットが周囲の状況を確認したのだが。


――ブゥン……

『ご主人さま、この湖底全体が、回収した謎の立方体と同じ材質により構成されています』

「うん、細心の注意を払って、カメラで湖底のブロックを確認して。並行で、僕も魔法で鑑定してみるから」


 そうフラットに指示を出したのち、八雲も両手を左右に広げて魔力を波のように周囲に飛ばすと、湖底のブロックの鑑定を始めた。

 だが。


――バジッ!

 八雲が放った魔力波長がブロックに触れた瞬間、バジッと拒絶反応を示したのち八雲の元に波長がそっくりと還されたのである。


「え、マジックリフレクション? なんで?」


 マジックリフレクションは、八雲たちのいた異世界では【魔導師】が用いる魔術の一つ。

 自身に向かって飛んでくる魔力をそっくりそのまま、相手術師へ向けて反射する術式である。

 魔術師同士の戦いの場合、このマジックリフレクションの強度を如何にうわまる術式を構成できるか、如何にマジックリフレクションを中和できるかが勝利の鍵となっている。

 また、飛んでくる魔術と同じ術式により打ち消す【カウンターマジック】というのもあり、魔術師にとってはこれらを自在に操れることにより一流と呼ばれるという。


 そして八雲の場合。

 瞬時に自己解析術式を付与し、対象者の魔術反射や中和術式と接触した瞬間に魔術波長を変化させる術式を構築しているため、仮の放つ魔術は反射も中和も不可能なのである。

 だが、その絶対無敵と呼ばれていた魔術が、あっさりと反射してきたのである。


「はぅあ!! お、俺の右奥歯に虫歯が発生しつつあるのかよ!!」


 しかも、しっかりと八雲自身を鑑定するというおまけつきで。


『湖底ブロック体より、高度術式反応……いえ、これは術式ではなく念動波?』

「急速浮上開始っ。魔法じゃなくサイキックかよ。そりゃあ見事に反射されるはずだわ。そっちの対策なんてしていないからなぁ」

『了解です』


 急ぎ湖底を離れる調査艇。

 すると、それまで光っていたブロック体が一つ、また一つと沈黙を開始。

 そして八雲たちが浮上しカルナヴォドス渓谷まで戻って来た時には、すでにブロック体の念動波は感知できなくなっていた。


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